第19話 おっさん、毒の沼地にズブズブいってしまう

 魔界から来たカルラが俺たちの仲間になった。

 部屋で食事を取った俺たちは、外出の準備を進めている。


「んん~~~これ……どうしましょう」


 リズがカルラの魔族の象徴である、角と尻尾を見て頭を抱えていた。


 たしかに、これで町中を歩くのはマズイな。

 人間界において、魔族に良いイメージはない。実際はさして人間と変わらんと思うけど。


「え? どうしたのリズ? ごめんね~~リズより大きくて。でもリズもかなりのモノじゃない」

「ちょっ! カルラ! そんなとこ見ていません! あなたの角を見てるんです!」


 そうだぞ。今はカルラの角と尻尾をどうしようかと考えてるとこなんだ。といつつまた見てしまったけど、タユンポヨン揺れてるやつを。


「ムフフ、リズってからかうと面白い~わかってるよ、これのことでしょ?」



 ―――きゅぽん!



「「へっ?」」


 俺とリズのマヌケな声が漏れた。


 だってカルラが2本の角を頭からプチっと抜いたから。


「なにぃいいい!?」


 ええ? 取れた? 抜いた? なにやってんだ!



 ―――きゅぽん!



「尻尾もかよぉおおおおお!」



「ちょ、ちょっとカルラ。なにも引きちぎらなくても! 大丈夫ですか……」


 リズが慌ててカルラに駆け寄りその身を案ずる。


「ふふっ~~ん。安心して、これすぐに付けれるからね」


 カルラが角をつけたり外したりしてみせる。

 帽子みたいだ……


「角と尻尾って外せるのか……知らなかった」


「そうですよ~~バートスさま。でも外すと固有能力は使えなくなるけど」


 そうなんだ……マジかよ。

 全然知らんかったよ、おっさん。俺には角も尻尾もないからな。


 まあなんにせよ、問題はこれで解決だ。

 普段は角と尻尾を取ればいい。



「では、人前では取るようにしてください。でも……カルラの角、かわいいんですけどね」

「やっぱり~わかちゃう? もっと言って~~あたし、角のコスメ用品とかけっこうお金かけてるんだ~」


「こ、コスメですか……カルラやバートスの話を聞けば聞くほど、魔界と人間界ってあまり変わりがないような気がしてきました」


「そうだね~」(でもバートスさまは規格外だよ~~)


「……はい、そうですね」(やはりですか……なんとなくそんな気がしてました)


 うむ、最後らへんはなに言ってるかは聞こえんが、2人は仲良くなったようだな。




 ◇◇◇




「ここが、討伐対象がいる森か」

「そうですね、毒素が強くなってきてます」


 俺たちは、宿屋を出て付近の森まで足を運んでいた。


 リズいわく毒素が強くなってきているらしい。

 さすが聖女だな。異変を敏感に察知する能力があるのだろう。


 ちなみに、おっさんは何も感じない。


 とりあえず3人とも、リズの買ってくれた毒耐性ポーションを飲んでおく。

 もちろんこれで全ての毒が防げるわけでもないが、多少は軽減してくれるそうだ。


 知らぬ間に毒であの世行きにはなりたくないからな。


「むっ……」


「どうしました? バートス?」

「いや、蚊に刺されたようだ」


 なんか首筋にチクッとした。

 蚊ってのはどこにでもいるな。ゴミ処理場でもやつらは意外な強敵だった。


「やだ~~蚊キライ! リズ、聖女の結界はってよ~」

「カルラ……できません。代わりにこれをどうぞ」


「虫よけポーション?」

「はい、飲めば虫よけ効果が発動します」


「うわ~~ありがとうリズ! ゴクゴク~~」

「カルラ、はじめに言っておきますが、私は聖女ですが氷魔法しか使えません……その……失望しましたか?」


「え? なにが? 虫よけポーションで解決したし。変わり種の聖女ってことでしょ? 面白いじゃん~~。」


「お、面白いですか……まあ誉め言葉と取っておきましょう」


 カルラの言葉に、少しビックリした様子のリズ。


「リズ、いつも通りの君でいいんだ。カルラはわかっているよ」


 俺はリズに声をかけた。


 リズはちゃんと考えて行動できる子だ。使えないなら、別の代替案を用意する。

 そんな行動は認められるんだよ。


 無いものねだりをして腐るか、別のなにか考えるかはそいつ次第だ。

 リズはちゃんと前を向くようになった。


 そしてカルラはそんなリズを認めているんだろう。この子も根はいいやつだからな。


「バートス……そうですね。さあ! 毒素がより強くなっています。気をつけて前進です」



 リズの瞳がキリっと前方を見据える。


「―――これは? 毒の沼地ですか……」


 俺たちの前に大きな沼地が姿を見せた。緑色のいかにも毒ですみたいなやつ。ところどころブクブクと気泡が浮かび上がっている。


「これはキングポイズントードが付近にいるとみて、間違いなさそうですね」


 うお~~いよいよか……緊張して来た。なにせキングだからな。


「全員即時戦闘に入れるように!」


「は~~い、リズ!」

「お、おう、リズ!」



「―――ってバートス! 片足入ってます!」 



 ―――うお! 本当だ! 毒の沼地にずっぽりいってしまった!


 死ぬ、死んでしまう!!



 …………あれ?



 特に何もないぞ?


 これはもしかして、見かけだおしなのでは?


 そうか! 毒素だってぶっちゃけなにも感じなかったし!


 理由はわからんが、たぶん随分前に出来た沼地なんだろう。

 キングと言えど永久に効力が持続する毒など出せないだろうし。



「―――リズ! これは大丈夫なやつだ!」



「ええ! 大丈夫なやつってなんですか! 毒の沼地に大丈夫も何もないですよ!」


 間違いない、俺の毒耐性でもいけるんだから。


 誰でもいけるぞ!


「これは余裕だぞ、リズ」


 よし、もうちょい進んでみよう。


「な、なに言ってるんですかバートス? ってズブズブってなんの音……

 ――――――キャあぁあああ! なに潜ってるんですか!」



「お~~い、リズ~~これはたいしたことないぞ~おまえもこい~~」



「――――――行けるわけないでしょ!!」



 なぜだ? リズにガチで怒られた。




―――――――――――――――――――


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