第23話 聖女リズの加護とその想い
俺は再び全身から炎が出て止まらなくなった。
広範囲に【焼却】を使用したからなのか、たぶん人間界に来てから一番強く使用した。
その炎を消してくれた人がいる。
「筋肉の人! ありがとう! 助かったよ!」
「キンニクの人? 何を言ってるんですか? バートス?」
あれ……?
俺の目の前にいるのは華奢で小柄な美少女だった。
「リズじゃないか……? え?」
「はい、元から私ですよ? どこか頭でも打ちましたか?」
あれ? 筋肉の人どこいった? 俺の見間違えなのか?
「いや、しかしムキムキだったと思うけど」
「ムキムキってなんです?」
「こんな美少女二人に筋肉だなんて、バートスさまの見間違えですよ。ね~~リズ」
「あ……!!」
リズがカルラの言葉を聞いて固まった。
「もしかして……私もなっていたのですか? カルラみたいに」
「なっていた? ムキムキにか?」
「む、ムキムキって言わないでください!」
「バートスさまに褒められて良かったね~~ムキムキ聖女様」
「な、なんですかカルラ!」
顔を赤くして蹲るリズを揶揄いながら、カルラは真相を話してくれた。
リズはカルラの固有能力でムキムキになったらしい。
彼女の固有能力は見たことがなかった。魔界の職場では管理部だったしな。現場の俺たちならいざ知らず、カルラが実作業をすることはほとんどないし。
「なるほど、【活性化】か。面白い能力だなカルラ」
「へへ~~バートスさまに褒められた~~あたしカエルいっぱい倒したよ~~」
ふむ、やはりあれはカエルだったか。
「でも、実際カルラの能力は凄いですよ。魔物をたくさん討伐しましたからね」
「へへ~~リズもたくさんカエル倒していたよ~~」
聞けば、リズもカルラもカエルを大量に討伐したらしい。
たった一匹に随分手間取った俺に比べて、彼女たちは何十匹と討伐したというわけだ。とても優秀だな。
今回は単体ではたしたことはないが、大量発生したから討伐対象となったのだろう。キングなんてたいそうな名前がついているからヤバいやつかと思ったが、全然違った。
「とにかくやりましたよ! キングポイズントードを討伐することができました。これも2人の協力があったからです!」
リズが目の前のカエルの亡骸を見て、俺たちにニッコリ微笑んだ。
俺はカエルを一匹燃やしただけなんだが。
「毒の沼地もすべて蒸発しましたし、毒素も感じられません」
「たしかに~~いい空気だね~やっぱりバートスさまはすご~い!」
リズとカルラが大げさに褒めてくれる。
「にしてもバートス大丈夫ですか? 毒のブレスを大量に浴びてましたよね?」
「うんうん、さすがに毒の沼地とかズブズブ行っちゃうからビックリだよ~~」
もちろん、強い毒なら即死していただろう。
だが今回のはカエルの毒だからな。ゴミ焼却場でしょっちゅう浴びてた緑の息だ。たいしたことはない。
リズとカルラが、俺の手やら足やらをいじくりまわして心配してきた。
大丈夫だというに。
「あれ~~バートスさま指になんかついてる?」
そこへカルラが、俺の指をマジマジと見て声をあげた。
「ああ、これな」
薬指についたこの赤い輪っか。
人間界にきたあたりから付いていた気がするが、擦り傷程度に思っていた。
だが……違うようだ。
自然に治るかと思ったが、消えない。風呂に入っても落ちなかった。
「う~~ん、それたぶんなにかの加護かな?」
「加護? カルラ、なんだそれ?」
「えっと、女神の力を借りてその人に力を与えるものですよ~」
「女神っていうと天界にいるやつか。しかし俺は女神になんか会った事ないぞ」
カルラがなぜ天界のことを知っているのかというと、彼女は幼少の頃に天界に留学していたからだ。
30年前の魔界と天界の大戦争のあと、交流を図るため互いに留学生の受け入れが行われている。
魔界の魔王様と天界の女神が和解する際に取り交わした約定のひとつだ。
もちろん両者の溝がそんなこと程度では埋まらないだろうが、魔王様からなにかしたいということで持ち掛けた案である。
あの人はキレると恐ろしいが、無用な争いはしたがらない。
しかし、俺はそもそも天界に行ったことがない。
だから女神の加護など受けるはずがないのだが。
「たぶん誰かがバートスさまに加護を付与したんだんと思う。でも、女神の力を借りて加護を付与できる程の人間なんて……聖女ぐらいじゃないかな~~」
聖女か……
俺とカルラの視線がリズに向いた。
「えと……はい。それは私が付与した聖女の加護です……」
俺はその内容を聞いて、驚いた。
なんでも俺が死んだ場合それをリズが肩代わりする加護だった。
その加護を付与する制約として、リズは俺と10日以上離れると永遠の眠りにつくそうだ。
ようするに死んでしまうってことらしい。
そして、俺の暴走した炎により死を肩代わりする加護のみが消えて、なぜか制約の赤い輪だけが残って今に至るとのことだ。
リズの左薬指にも同じように赤い輪っかがある。
にしても、なんて危険なことをしたんだ。
おっさんの力量では頼りないと言うのは良く分かる。
だが、だからと言ってリズが犠牲になっていい理由にはならない。
「リズ、気持ちはありがたいが、今後こんな無茶なことはしなくていいぞ」
「はい……バートス」
俺もそれ以上は言わなかった。
あの時のリズは、まだ自分の自信を取り戻していなかったからな。
絶望していた時に取った行動だ。
でも今は違う。だから、もう大丈夫だろう。
「ところで、リズはどうやって俺に加護を与えたんだ?」
「そ、それは内緒です!」
「んん~~そういえば森で目をつぶれとか言われて、ムニュとした感覚があって」
「だから、そこはいいです! それより……黙っていてごめんなさい」
リズは申し訳なさそうに俯いた。
「ああ、気にするな。それに離れられないのだから、これからもよろしく頼むよ」
「ずっと一緒ですよ……バートスはそれでいいんですか?」
「もちろんだ」
「ほ、本当に? 本心から言ってますか? 私の加護があるから止む無くじゃないですか!」
リズはいつになく不安そうな表情で俺を見る。
最近では珍しい表情だ。それこそ、初めてあったばかりの頃の顔を思い出した。
俺はリズの手を取って、その透き通るような綺麗な紫眼を見て言う。
「ああ、かまわん。俺はリズの従者だ。それにリズといると楽しいからな」
俺がそう言うと、リズは静かに頷いた。
◇聖女リズ視点◇
うわぁ~最後はなんか叫んでしまっていました。
必要以上に食い下がってしまった……
本心は違うのでは? 本当に一緒にいたいの?
そんなことを言わずとも、バートスは一緒に来てくれると知っているのに。
いえ……そうは思っていないから叫んだ?
ああ、もう良く分からないです!
「あの? カルラは天界の学校にいたんですよね?」
私は横にいるカルラにそっと声をかける。
少し前を歩くバートスには聞こえないように。
「うん、あたしがいたのは1年間だけだどね~どしたの?」
「その……私の付与した加護は、なぜ赤い制約だけ残ったのか疑問で……カルラなら加護についてなにか知ってるのでしょうか?」
そう、レッドドラゴン討伐の際に、バートスの炎は暴走してしまった。
私の氷魔法で暴走を止めたのですが、なぜか赤い輪だけは残りました。
「そうだね~~言おうかな~どうしようかな~」
「何か知っているなら……教えてください……」
「へへ~~リズにしては珍しくしおらしいね~~」
「ムッ、なんですかそれ。なにか知ってるんですね! だったら教えてください!」
「それそれやっぱリズはそうこなくっちゃ。加護は使用者の想いの深さが関係しているらしいよ~」
「想いの深さ?」
想いって……
「そうそう、強く想う程、強い加護になるって~」
え、それって……
自分の人生に絶望してて、それでも手を差し伸べてくれたバートスだけは死なせたくないと思ってした行動だったけど。
でも……本当は……
「バートスさまの炎でさえも消せないぐらい、リズの想いが深かったんでしょ~~」
「そうなんですね……」
「でもねリズ―――そこは負けないからあたし!」
そう言うとカルラはバートスのところへ走っていった。
私は薬指にまかれた赤い輪を見る。
そっか、私……絶対に離れたくないんだ……
バートスと。
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