第16話 おっさん、初給料をもらう
「バートス、そろそろ到着しますよ」
リズが俺の肩を優しく揺らしていた。
俺は目を擦りながら伸びをして、馬車を降りる。
目的地のフラーグという町だ。
「ふわ~~良く寝た……」
馬車の揺れが丁度よくて、眠りながら到着するなんて最高に贅沢だな。
これも第三王女がある程度の路銀をくれたからだ。あれが無かったら徒歩移動になっていたぞ。
「随分とのどかな町だな。こんなところに魔物が出るのか?」
「ええ、討伐対象の魔物はこの町の付近に住み着いているようですから」
「え~~と、名前なんだっけか……」
「キングポイズントードです」
そうそう、それ。 もう名前からして怖そう。
S級指定の魔物らしいし。
俺たちの仕事は、そのキングなんちゃらを討伐することなのだ。
「とりあえず道具屋に行きましょう」
「ああ……たしか毒を吐くんだっけか」
「はい、バートス。キングポイズントードは強烈な毒を吐くらしいですから、解毒薬を買っておかないと」
「毒かぁ、ヤバそうだな~それ」
「バートスは毒に耐性はあるのですか?」
「ほとんどないな。魔界のゴミ焼却場にも毒を吐くやつはいた。が、それはたいしたことのないやつらだ」
今回の討伐対象はキングだからな。あんなやつらとは比べ物にならない強さだろう。
「やつらということは、たくさんいたのですね?」
「ああ……そうだな」
一時期魔界に大量発生して、毎日燃やしていたのを思い出す。
「みんな元気にやってるかな……」
「フフ、バートスも魔界に大事な人たちがいるのですね」
「ああ、同僚達には恵まれていたと思うぞ、俺は」
そう、それに管理部にも俺に良くしていくれる子はいた。カルラだ。
結局カルラとは話も出来ぬまま人間界に来たので、少し心残りではある。
彼女も元気にやっているのだろうか。
かつての同僚たちを思い出して懐かしんでいると、目的地の道具屋に着いた。
店内を回ると、薬やポーションの他にも武器や防具から衣服まで揃えてある。専門店というよりは万屋のような感じだ。
まあそれほど大きな町ではないからな。色々兼用しないと経営が成り立たないんだろう。
んんっ! あれは……
「―――ふお! リズ! リズ!」
店の奥に進むと、とんでもないものを発見してしまった。
「あら、たこ焼きですね。って、バートス! 近よりすぎです!」
思わず前のめりになってしまった。
しかし……丸い玉がホクホクに焼けていて、うまそう~~
「り、リズ……俺のお金使っていいか?」
「もちろんです。バートスのお金ですから。好きに使ってください」
そう……俺は自分の金をもっているのだ。
なんと! おっさんは、聖女リズから初給料をもらったのである。
日々の生活代はリズが支払ってくれる。
馬車の運賃とかもだ。いわゆる経費というやつだな。
それとは別に給料をくれたのだ。
正直トカゲを燃やしただけなのに。
こんな年端もいかない少女を騙しているような感も若干したが、仕事をしたことに変わりはない。
ありがたく使わせてもらおう。
リズは解毒剤など必要なものを購入し終えたようだ。
店の奥に小さなベンチがあったので、そこでたこ焼きを頂くことにした。
「はふぁ~~うまい! うまいぞ、リズ!」
「フフ、たしかに美味しいですね。それにこの味、ソースが違うのでしょうか?」
たしかにソースがいつもの味ではない。なんか独特な香りがアクセントになっており、これはこれでとても良い。
「この町フラーグのたこ焼きは、ソースにバージルが入ってんだよ」
店のおばちゃんが、水を持ってきてくれた。
バージルとは香辛料のことらしく。様々な料理に使用するのだが、たこ焼きのソースにしているのは珍しいらしい。
ソースひとつでこの変わりよう。たこ焼きは奥が深いな。
「ただねぇ……バージルの葉が取れなくなっちゃってねぇ~」
「もしかして魔物ですか?」
「そうなんだよ、あの魔物が居着いた場所にはバージルの木がたくさんあるんだけど……もう毒でダメになってるだろうね……だからこの味も最後だよ」
マジかよ……こんなに美味いのにな。
「あら、そう言えばお嬢ちゃん若いのに法衣を着ているねぇ。神官見習いかい?」
「はい、聖女として、キングポイズントードの討伐に来ました」
「ひゃあああ~~聖女様だったのかい! これはとんだご無礼しちまったよ」
「いえ、お気になさらず。みなさまはいつも通りにして頂いて結構ですよ。フフ」
「そうかい、ありがとね。あの魔物が居ついてからなんだか息苦しくてね」
おばちゃんの話によると、キングポイズントードは町から少し進んだ森にいるらしい。
一度領主の騎士たちが討伐に向かったが、ほとんど全滅してしまったそうだ。領主もそれ以降はなにも手を打っていないとのことだ。
さすが王国S級指定の魔物だ。前回のトカゲとは違い本当にヤバいやつなんだろう。
おばちゃんが息苦しいのは、キングから出る毒素が周辺に浸透しているからだ。ほうっておいたら、いずれこの町も住めなくなるかもしれん。
「そういえば、魔物とは別のうわさも最近聞くねぇ~~なんでも魔族が出たとか」
「魔族ですか? 被害は出ているのでしょうか?」
「それがね~~暴力を振るうわけじゃないらしいんだよね~~
暗闇から急に現れて、馬乗りになって、「違う……」って言って去って行くらしいよ」
「なんですか……それ」
「まあ噂だからね~~聖女様は魔物の討伐にがんばっておくれ」
その後も、たこ焼きをたっぷり満喫した俺たちは店を出た。
いや~~~美味かったな~~
「バートス。さきほどの店主の話ですが。心当たりはありますか?」
「いや、まったく見当もつかないな。いきなり馬乗りになる魔族なんて聞いたこともないぞ」
「そうですか、まあ噂レベルのお話でしたが。変質者かなにかかもしれません。とにかく万が一に備えて、気を引き締めましょう」
魔族は30年前に天界の天使と戦争した。
原因は人間界にいた魔族と天使の小競り合いが発端であるが、最終的に魔界と天界を巻き込む大戦争になってしまった。
勝敗はつかずに和解ということになっている。
魔界の魔王さまと天界の指導者である女神は、人間界に干渉しないという約定を交わした。
なので、それ以降は人間界への行き来が厳しくなったのだ。
魔界の転移ゲートを使用するには、許可証も必要になった。
とはいえ、ガチガチに厳しいわけでもない。俺が追放された時も副局長は簡単に許可証を手に入れてたし。まあ、あいつは親のご威光を使っているのだろうが。
それに元々人間界に住み着いている魔族も多少はいるしな。
にしても馬乗りか……
リズの言う通り、女性目当ての変態魔族なんだろうか。
まあいずれにせよ俺が馬乗りされることはないだろう。
こんな地味おっさんに馬乗りしても意味が無いからな。
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