第17話 おっさん、宿屋で馬乗りにされる

 俺たちは宿屋に入った。本格的な魔物探しは明日にして、今日はゆっくり休む。

 万全の体調で行かないとな。なんせキングってつく魔物だから。


「ば、バートス! 大変です! 事件です!」


 リズが宿屋のフロントからこちらに駆けてくる。


 ええ! まさか魔物がきたのか!?


 おいおいおい、心の準備ができてないよ~~


「つ、ついてきてください!」



 やっぱ出たんじゃないのかぁ。キング~~



 血相を変えて、2階への階段をズンズンと上がっていくリズ。


 おい? どこへ行くんだリズ?

 外に行くんじゃないのか?


 リズは2階にある一室のドアをバーンと開け放った。



「―――今日は、この部屋しか空いてないんです……」



 事件と言うのは、この町唯一の宿屋が一室しか空いてないということらしい。


 なんだよ、ビビらさないでくれ。


 キングが出たのかと思ったじゃないか……


「しかし、ここしか空いてないならしょうがないだろう」

「ば、バートスはいいんですか?」


 リズは別々の部屋がいいのだろう。たしかに男女が同じ部屋と言うのはマズいのかもな。


 だが、以前も同じ部屋だったことがあるし、野営でも一緒だし今更な気もする。


「別にいいぞ。それにベッドは2つある。端っこに離せばいいだろう」

「そ、そうですね。へ、変な事したら怒りますよ……たぶん」


「ハハハッ、安心しろ。俺はリズの従者なんだぞ。そんな気はさらさらない」

「むぅ……さらさら無いって~~そんなにはっきり拒否らなくても……」


 リズは頬をぷくーっと膨らませて俺を疑いの目で見る。


 たしかに、さらさら無いと言うのはぶっちゃけウソだ。リズは男からしたらかなり魅力的だ。超絶美少女なうえに、出るところはしっかり出ている。


 しかし、こんなおっさんが何かしたら絶対ダメだろう。そんなことになったら、人間界をも追放されかねない。


 もはや信用してもらうしかない。


「安心してくれリズ。さあ今日は早く寝て明日に備えよう」


 俺がそう言うと、リズはコクリと頷いた。


 夕食を取って風呂で疲れを流した俺たちは、ベッドにもぐりこんだ。

 やはり馬車内で寝るより全然いいな。まあ当たり前のことだが。


 長旅で疲れていたこともあり、俺とリズはすぐに眠りについた。



「……グウグウ……さま~~」


「……グウ……トスさま~~」



 ―――んん? もう朝か? 



 リズが俺の体を揺さぶっているようだ……って!?



 なんで俺に馬乗りになってるんだ―――リズ!!


 そんな俺の疑問をよそに俺の名を連呼して、揺さぶり続けるリズ。



 いかんだろ! これはいかんだろ!



 さすがに完全アウトだぞ。セーフとなる要素が全く無い。


 ―――いや、待てよ。


 これは夢か?


 現実的にリズが俺に馬乗りなって揺さぶり続けるなんてこと、あるわけがない。


 だとしたら……俺はなんちゅー夢を見てるんだ。


 美少女聖女に馬乗りされている願望があるとか、リズが聞いたらドン引きされるぞ……。



 にしてもリアルに揺らしてくるな夢のリズよ。



 ―――あれ? ちょっとまて。



 リズの顔ってこんなんだっけか? 頭に角なんてあったかな?

 それにこんな露出度高い服だっけか? なんかムチムチしてるけど……



「バートスさま~~やっと見つけた―――!!」



 この声!?


 聞き覚えがあるぞ……俺は目を擦り、徐々に脳を覚醒させていく。

 カーテンからかすかに光が漏れている。明け方のようだ。


「か、カルラか?」


「わぁ~~ん、やっと会えたよ~~」


 そこには魔界の職場にいるはずのカルラがいた。

 俺に馬乗りになって、ガン泣きしながら。



 なんだこれ? どういう夢だ? 意味が分からん。



「うん……な、なんですか騒々しいですね……

 ――――――え、えぇええ! バートス!!」


 リズも目覚めてしまったらしい。


 そして即座にこちらの状況を見た瞬間に固まってしまった。


 これは夢ではなさそうだぞ。


 そうか、おっさん変態な夢を見てなかったんだな。精神が変態になったわけでは無さそうだ、良かったよ。



 って―――良くないじゃないかっ!!



 夢じゃないなら、なぜカルラがここにいるんだ?


 しかし、彼女に話しかけようとした俺の言葉は、リズの叫びによってかき消された。



「ま、魔族……なんかすっごいハレンチな格好してます!

 バートスからすぐに離れなさい! この淫乱魔族――――――――!!」



「なによあんた! あたしはバートスさまから離れないんだから!!」



 朝っぱらから、美少女聖女とムチムチ魔族の戦いが始まってしまった。






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