第15話 魔族カルラ視点、おっさんへの想い

 ◇魔界の清掃局、ゴミ焼却場◇

 ◇カルラ視点◇



「みんな~~、お昼持ってきたよ~~」


「ふぅう……やっと休憩か、みんな飯だぞ」

「カルラちゃん、ありがとうな」


「いいよ~たくさん食べてね~~」


 作業員のみんなは食事を取ると、すぐにその場でゴロリと横になる。


 みんなグッタリしているし、前みたいに楽しい会話は弾まない。


 理由はわかっている。


「もう何連勤してるんだろうな? 休みが永遠に来ないんじゃないかと思うぜ」

「おれ、もう10日も家に帰ってねぇよ……」


 バートスさまがいないから。


「バートスのおっさんがいないのは、やっぱキツイな」

「ああ……おっさんがいれくれたらなぁ」


 ここにいるみんなは優秀だし、色んな固有能力をもってゴミ処理の仕事をしてくれている。凄い人たち。


 でも―――あたし、知ってるんだから。


「おっさんは俺たちに仕事を教えてくれたしな」

「ああ、一番の古株だよな」


 バートスさまはもっと凄い。

 本人はわかってないけど。本当にとんでもない人なんだから。


「でも、バートスのおっさんはすげぇけど、全然偉そうにしないんだよな~」

「ああ、あいつとは大違いだ」


 凄すぎたから、いなくなってから大変なの。

 みんな頑張ってくれているけど……でも確実に仕事が回らなくなっている。


 あいつが無茶苦茶やらせるから……


「おい! クズどもがぁ! な~~~にサボってやがる!」


 そのあいつが現れた。



 私のバートスさまを解雇した張本人。



「ゲナン副局長、俺たちはサボってるのではなく休憩中ですぜ」

「やかましい! おまえらがちんたらやってるせいで仕事がたまってんだよぉ!」

「ですが、人員の補充もないし。こんなシフトじゃ、みんな参っちまいますぜ」


「はあ? 補充って誰かかけたのか?」


「誰って……バートスさんに決まってるじゃないですか」


「ああ? バートスだぁ? あんな無能などいてもいなくても同じだろうが!」


「「「「「ええぇ……副局長、それ本気で言ってんすか?」」」」」


「何度も言わせるな! 俺様に文句のあるやつはクビにするぞ!」

「そんな……」


「俺様は名門魔族の将来有望な人材なんだ! こんな清掃局なんてクソみたいな職場、父上に言われなきゃ来るわけないだろうが! 来てやってるだけでもありがたいと思え!」


「……チッ。お坊ちゃん魔族のお遊び研修じゃねぇか……」


「ああ! なんか言ったか? おまえクビにされたいのか? 今日はまだ1人もクビにしてないからなぁ~いっとくか?」

「い、いえ……なんでもねぇです……」


「ちょっとっ! 副局長! そんな簡単にクビだななんて言っちゃダメです!」


 ゲナン副局長は、名門魔族の三男だ。

 将来魔族社会の管理職となるため、数年前に清掃局管理部に副局長として赴任してきた。


 局長は魔王様に同行して長期出張中だから、実質いまの清掃局を取り仕切っているのはこいつ。



「グへへへ~~カルラたんは、クビになんかしないから安心して~ずっと一緒だよ~~」


 なにこいつ……相変わらず気持ち悪い。こんなのが上司だなんて最悪。

 目つきが変態そのものだし。


「バートスさまがいないから、人員を補充しないといけないんです! みんな疲れ切ってますよ! ああ……なんでバートスさまを解雇したんですか!」


「グフフ~~カルラたん~~あいつに洗脳されてたのかな~~僕が解放してあげるから安心して~~」


 ダメだ、キモイ。

 普通の会話が成り立たない。


「あんな無能の事は忘れて~~僕が仕事教えてあげるよ~手取り足取り~~色々教えたげる~~」


「ちょっとっ! どこ触ってんのよ! セクハラしないで!」


「グヘへ~~喜んでいるのかい~~~カルラたんはかわいいねぇ~~ムチムチだね~~おっと、優秀な俺は仕事があるから~~また夜にディナーに行こうねぇ~グフフフ」


「副局長……それはマズイですぜ。カルラさんも毎日嫌って言ってるでしょうが」


「グヘヘ~羨ましいのかおまえら~~俺とカルラたんの親密な関係に嫉妬してるのか~~」


 ダメだ、こいつ本当におかしい。

 気持ち悪いスキップをしながらゲナン副局長は去って行った。


 なによ……



「もぉおおおお! なにあいつ! キモイ! キモイ! キモイ!」



 バートス様は、入社したてのあたしに色々教えてくれた。

 管理部でやってくなら、まずは現場を知ることね! と颯爽と現場に来た生意気な小娘に、嫌な顔ひとつせず。


 はじめはみんな上流魔族の娘だからって、距離をおいてたけど。


 バートスさまがみんなと変わらず接してくれて、それでみんなとも仲良くなって……


 強力な魔物が急に暴れ出した時も助けてくれて。



 なんで勝手にどっか行っちゃうの!


 なんであたしに何も言わずに去っちゃうの!



「みんな……あたし……」



「行ってこいよ、カルラちゃん」



「……え?」



「バートスのおっさん探しに行くんだろ」



「でも……みんなは?」


「ここは大丈夫だ。俺たちもいつまでもバートスさんには甘えられねぇからな」


「……」


「それにいつかは戻って来るんだろ? おっさん連れて」


「バートスさまは理由はどうあれ解雇されちゃったし、あたしも辞めたらここには戻れないよ」


「ば~~か、誰が職場に戻れって言ったんだよ。カルラちゃんがバートスのおっさんの嫁さんになって遊びに来いよって言ってんだ」

「それに副局長も異動してるかもしれねぇしな~~」

「ガハハハ~~そうなったら最高だぜ」



「みんなぁ……」



「さあ、行ってこい! こんなセクハラ職場でウジウジしてんじゃねぇ!」



「うん! あたし行ってくるよぉ~~」


 ありがとうみんな……あたし、絶対にバートスさまを探し出す!




 ◇◇◇




 ◇ゲナン副局長視点◇



 カルラたん~昨日はすこしばかりご機嫌ななめだったかな~~いや、あれは僕への恥じらいだな~いい男すぎて照れてるのか~


 なんてかわいいんだ、俺様のカルラたんは。


 グヒヒヒ、では~~今日も愛しのカルラたんのムチムチボディをたっぷりと堪能するぞ~



 あれ? 



 カルラたん、いない?



「おい! おまえたち! 俺様のカルラたんは、どこにいるんだ!」


 俺はその場にいる焼却場作業員を睨みつけた。

 だいたいカルラたんは焼却場にまで行く必要もないんだ。こんなやつらは顎で使えばいいのに。


 こんなやつらの仕事内容なんて知る必要もない。だって燃やしているだけだろ。



「副局長、カルラさんなら辞めましたよ」


「はあ? 辞める? おまえ何を言ってるんだ? なんでカルラたんが辞めるんだ?」


「そう言われても、副局長に辞表出しったって言ってましたよ」



「カルラたんが辞表なんか出すわけないだろ! 昨日は僕にラブレターくれたんだぞ! 楽しみすぎてまだ読んでないけどな! このドキドキ感はあと1週間は堪能してからあけるんだ!」


 おれは大事に胸ポケットにしまっていた、カルラたんのラブレターを見せつけた。


「いや……それが辞表でしょ……」


「なら、今から僕とカルラたんの熱々ラブレターを読み上げてやる! 心して聞け!」


「はあ……まあいいっすけど」


「副局長のセクハラが酷すぎて退職します。以上……」



「―――なんじゃこりゃぁああああああ!!!」



 なんでカルラたんが辞めるんだ?


「ていうかセクハラってなんだ?」


「毎回やめてと言ってたじゃないですか、カルラさん」

「日に日に顔色悪くなっていたじゃないですか」


「あれは俺とカルラたんの仲睦まじい愛情表現だ! どう考えても、「もっとして」の「やめて」だろうが!」



「ええぇえ……何言ってんですか? 副局長……」


「とにかく、目の前の仕事を片付けましょうぜ、副局長」

「それから、ゴミの受け入れ量を事前に教えてくれ。あんたが仕切るようになって何一つうまく回っていないんだ」


 無能どもがなにやら言っているが、そんなことはどうでもいい。



 カルラたんがいない……



 なぜこんなことになった?




―――――――――――――――――――


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