第12話 おっさん、宮廷魔導士にビビられる
王城に行ったら王子に絡まれて、なぜか宮廷魔導士というやつと戦うことになった。
しかも、これは技術を競う戦い。
どれだけ炎をコントロールできるかの勝負なのだ。
すでに相手の魔導士バムなんちゃらってやつは、その凄さを存分に発揮していた。
彼の練り出した魔法。たしか上級火球魔法とか言ってた。
おそらく、本来はとてつもなくデカい火球を放つ魔法なのだろう。
―――だが……
魔導士の掲げた両手には小さな火球が浮いている。
本来の大きさを明らかに逸脱しているはず。
彼の卓越した技術力がそれを可能にしているのだ。
「みろぉおお! 俺様の部下はすげぇだろお!! これほどの火球を出せる奴は王国にも数人といないぜぇ!」
「ここまでの大きさ……バートス、気を付けて!」
言われなくてもわかっているさ。この魔導士の凄さは。
だがな……
俺も座して終わる気は―――さらさらない!
「――――――【焼却】!」
―――ボウっ!
俺の体内から炎が噴き出してくる。
魔界で毎日出し続けた炎だ。
「ぐぬぅううう!」
抑える抑える抑える!
「お、おいおい……なんだよ、このおっさん……」
「バートス! す、凄い……」
―――凄いだと!?
王子もリズも何を驚いている?
いや、今はそんなことより集中だ!
相手の魔導士に比べて、まったく火力が抑えれていないからな!
もっと小さく!
いつも出している炎だろ!
コントロールしてみせろ! 俺!
――――――ボ、ボウっ!
いかん! なんか力んでしまった……
余計に炎が出てしまう!
「ぐ……なんなのだ貴様? その炎は……え、詠唱もなしにそんなバカでかい……」
魔導士の男が口を開く。明らかに俺に失望しているな。
そんな程度のコントロールしかできなのか……と。
クソ―――。
そもそも人間界に来てから、ずっと出力を抑え続けていたからな。
魔界じゃ毎日毎日ずっと燃やしていたのに。存分に燃やしていたのに。
これじゃあ、消化不良だ。
人はいつも通りの事ができないと、ストレスを抱え込んでしまう。
だが―――
そんな泣き言を吐いている場合ではない。
―――抑えるんだ! 相手よりもより小さく!
「ぐぬぅううううう!」
だが現実は非情だった。
俺の想いとは裏腹に、どんどん勢いを増す炎。
気合を入れれば入れるほど、大きくなる炎。
「―――ひぃい! 私の火球よりはるかに大きいだとぉお……」
相手の魔導士が声を漏らす。
もう失望を通り越して、呆れているのだろう。
これでもめちゃくちゃ抑えていんるんだぞ!
この魔導士の炎が小さすぎるんだ。
「―――ひぃいい! な、なんなんだ貴様!」
「ぐぬぅうううううううう!」
もっと小さく!
俺の限界を超えて!
―――――――――ボ、ボ、ボウッ!!
くわぁあああ! ダメだ! これ以上小さくならん!!
「―――ひぃいいいいい! ば、化け物だ! た、助けてくれ~~~」
ええ!? どうした?
魔導士の男が奇声を上げて円形闘技場から全速力で走り去っていったぞ……
腹でもくだして、トイレにいったのか?
わけが分からん。
「な、なんだこれは? そうかこれは幻覚魔法かなにかだな? このペテン師おっさんめが!」
王子がブツブツ言いながら円形闘技場に近づいてきた。
「おい! 今近づくと危ないぞ!」
「ふ、やはりか。このペテン師おっさんめが! おまえの嘘を暴いてやるぜぇええ!」
何を言っているんだ?
というかすぐには炎は消えないぞ。
バカみたいにズンズン近づいてくる王子。
火の粉が王子の頭上にポンと落ちる。
「ギャハハハ~~ウソの炎なんざ怖くもなんともねぇ……
―――――――――ギャア! 熱ちぃいいいいいいいいい!!」
「キャー、ザーイさま~~」
「ふぉおお、ミサディ~~
ほらぁ……言わんこっちゃない……人の言う事を聞かないからだ。
そして俺の炎はじょじょに消えていった。
「バートス。大丈夫ですか? 私の回復は必要なさそうですね」
「ああ、リズ。今回は暴走してないからな」
そりゃそうだ、トカゲのときよりめっちゃ抑えたんだから。
これで暴走とか勘弁してほしい。
「バートスって本当に凄いです! あの宮廷魔導士はかなりの使い手ですから」
「ああ、あいつはとんでもない手練れだよ」
「でもバートスが勝ちましたから」
「そうだな、なんとかなったようだ(相手がトイレ我慢できなくて助かった)」
理由はなんであれ、勝ちは勝ちだ。
そして、王子も応急措置を終えたようだ。
「クソ~~なぜ俺様の宮廷魔導士が……」
「ザーイ殿下、あの者たちは特殊な魔道具かなにかを使っているのですわ。でなければ殿下の優秀な宮廷魔導士が敗れるはすがりありませんもの」
「なに……そうか。リズロッテが以前王城に通っていたころに、宝物庫から盗んでいたのかもしれんな」
「ええ、ですがここはザーイ殿下の寛大なお心で、あの者たちに勝ちを譲ってあげましょう」
「そ、そうか。ミサディがそう言うならそうしておいてやるか」
「ンフフ、さすが殿下ですわ。というか実は殿下も見抜いておられたのでしょ?」
「ええ? お、おう。そ、そうだ。やはりミサディ、おまえは賢いな。さすがは俺の婚約者だ」
「それに、今回の討伐をあえて認めてゴニョゴニョ……」
「グフフ~~それはいいな! さすが俺のミサディだ!」
王子はミサディという聖女とブツブツ話し終わると、こちらに鋭い視線を向けてきた。
「おい! おっさん! 姑息な手段を使ったとはいえ、おまえが出した炎の勝ちとしておいてやる。俺様のとてつもない温情だ。ありがたく思え!」
いや、違うだろ。炎のコントロールでは完全に俺の方が圧倒されていた。
たぶんあの魔導士は腹が痛くなったんだと思うぞ。
「良く分からんが、もういいんだな?」
「ああ、お前たちのレッドドラゴン討伐を一応認めてやる。が、俺様から話がある。ありがたく聞きやがれグフフ~~」
「王子よ……取り合えずその頭を何とかしてからの方がいいぞ」
「ああ? 俺様の頭がどうかしたのか?」
「あの……ザーイ殿下。たしかにいったん整えてから、この者たちに話をされた方がいいかもしれませんわ……」
「ととのえる? なにをだ、ミサディ?」
「えと、その……」
王子の頭は完全に爆発アフロになっていた。
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