第13話 おっさん、聖女リズの決意にしびれる
ここは王城の一室である。
室内には俺とリズ、ミサディという聖女。そしてトランと名乗る男、この国の宰相だそうだ。
それから……
デカい帽子をかぶったザーイ第二王子。
「ミサディ。どうだ? 大丈夫か? 俺様カッコイイか?」
「え……え~っと……お帽子お似合いですよ……そこまで髪も気にならない……ような気がします」
どうやら王子のアフロは以前の直毛には戻らなかったらしい。
帽子からもじゃもじゃが溢れだして、えらいことになってる。
別にアフロという髪型がダメというわけではないが……
似合わないなぁ。むしろ帽子はいらんような気がするぞ。
それが証拠に、ミサディとやらもカッコイイとは言わない。
「クソ……、俺様の華麗なる髪をこんなにしやがって……下民おっさんが! 全部おまえのせいだ!」
そんなこと知らんがな。
王子が勝手に闘技場に近づくからだろう。
それに良く分からん勝負を持ち掛けてきたのも王子じゃないか。
この王子は、まわりに注意してくれる者がいなかったのだろうか。
「殿下……王族が下民等という言葉を軽々しく使ってはなりませんぞ」
宰相が王子に進言する。
「トラン、うるさいぞ。昔からグダグダとムカつく野郎だな」
「私の事はどう思われても構いません。殿下に王族としての自覚をもって頂きたいだけなのです」
いるじゃないか。ちゃんと注意してくれる人が。
こういう人が大事なんだぞ王子。
「ザーイ殿下。そろそろ本題に入って頂けますか。お話というのは何でしょうか?」
今まで黙っていたリズが口を開く。
「……チッ! まあいい。レッドドラゴンを討伐したと言うのなら……」
王子がニヤリと口角を上げて、会話を続ける。
「―――他の討伐対象も今すぐ始末してこい! おまえが自分を聖女と言い張るなら出来るだろう? グフフ~~」
王子が言う討伐対象とは、レッドドラゴンのような王国の脅威と認定された魔物のことらしい。
この国の聖女とは、災いから国を守るもの。
巨大な脅威は、聖女が排除してきた。
リズもそんなことを言っていたな。
「殿下! それはあまりに早急な! リズ様はレッドドラゴンを討伐したばかりですぞ。しばしの休養も必要でしょう」
「グフフ~~その女に休養などいらんだろうが~~今までなにもしてこなかったのだからなぁ~~」
「であれば、少なくとも騎士団や魔法師団から兵の補充が必要です。またリズ様たちの装備品を整えねばなりません」
宰相が言うには、歴代の聖女は多数の軍勢を引き連れたり、すご腕の戦士や魔法使いといった一騎当千のメンツを揃えたり、国宝級のアイテムを装備したりして事にあたったらしい。
王子の横にいるミサディも、国の騎士団を引き連れてアースドラゴンとやらを討伐したとのことだ。
たしかに宰相の言う通りだな。
今回はたまたま赤トカゲだったから、俺でもなんとかなった。だが、それは今回ラッキーだっただけだ。他のやつらは討伐対象に認定されるぐらいだ、ヤバイ魔物ばかりなのだろう。
「はあ? こいつら2人でレッドドラゴンを討伐したならできるだろう? 必要な兵はミサディに所属しているしなぁ~~王国も暇な兵なんていないんだよ。おまえに回す余裕はないなぁ~グフフ~~」
「では、ミサディさま所属の兵を一部リズ様に再編成しましょう」
「ああ? 俺の大事なミサディの戦力を減らすわけねぇだろ! このバカ宰相が!」
「グフフ~さあ討伐してくるのだぞ~出来損ない~~早くしないと俺様の聖女ミサディが、全部討伐してしまうぞぉ~~」
「ンフフ~リズさまならできますわよね~~」
王子とミサディが、ニヤニヤとリズを見る。
嫌な目だな。
「宰相トランさま、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です」
「リズさま……いや、しかしこんな無茶苦茶な状況で討伐など……あなたのお命が危ないですぞ」
「もうこの仕打ちには慣れております。それに、私も王城からは早く離れたいですし」
リズが俺の方に歩み寄り、退室しようとすると王子が再び声を掛けてきた。
「まあそう焦るなよ、出来損ない。どうだ? 死ぬ前に抱いていやろうか~~クズだが、体だけはまあまあだからなぁ~~グヘへ」
―――こいつは何を言っている?
ふざけるにも限度があるぞ。
体内の熱い炎がふつふつと湧き上がってくる。
俺が一歩前に出ようとしたのを、小さな手が止めた。
リズだ。
「バートス大丈夫ですよ」
青く優しい冷気が繋いだ手を伝わり俺の炎を静めていく。
そしてリズは王子に視線を向けると、王城中に響くような大音量で言い放つ。
「―――ふざけないでください! 誰があなたになんか体をゆるしますか! 私の将来の伴侶は自分で決めます! あなたなんかに支配されません!」
「ぐっ……この出来損ないがぁ……俺様にむかって生意気な……」
「ザーイ殿下、あなたが何と言おうが私は聖女です。聖女の使命を全うします! では、討伐に向かいますので。行きましょうバートス」
そういうと、リズは俺の方を向いてニッコリと微笑んだ。
ああ、いい顔になったな。
―――仕事を楽しんでいる奴の顔だ。
そして……
――――――かっこええ!!
おっさんの手を取り颯爽と去るリズ、めちゃくちゃかっこいい!!
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