第7話 おっさん、レッドドラゴンをボウッ!と燃やす

「ば、バートスっ!! なんて威力なの!!」


 レッドドラゴンの灼熱のブレスが俺を直撃した。

 俺を中心に赤い炎が周囲を覆い尽くす。



 が……



 まったく熱くない。


 というかむしろ勢いよくぶつけられた分、涼しいぐらいだ。



 俺は確信した。



 これはトカゲだ。魔界のゴミ処理場で俺がもっともよく燃やしたやつだ。


 赤トカゲ。


 たまに生きているやつが焼却場で吐いてくるからな、この赤い息。


 これ見た目は派手だが、ハッキリ言って大したことない。

 こんなおっさんですら無傷だからな。


 なんだか前の職場を思い出すよ。


「え? 私……生きている? なぜ聖女の加護が発動しないの!? バートスを助けてよっ!」


 リズが自分の体を触って、なにやら叫んでいる。


 加護ってなんだ? 俺を助ける? 良く分からんがなにを驚いている?


 リズはブレスにすら当たってないだろ? まあ当たってもどうってことないけど。



「なにを慌てているんだ? リズ」


「―――ええ!? ば、ば、バートス?? 生きてます! ピンピンしてます! 大丈夫なんですか!?」



「そりゃ大丈夫に決まっているだろ?」


「かすり傷ひとつないです……強力な防御魔法でも使ったんですか?」


「いや、俺は魔法なんか使えん」


 リズと良く分からん押し問答をしていると、大きな咆哮が俺たちに降り注いできた。



「クッ……なんて凄まじい咆哮ですか……」



 リズは俺との会話を止めて、持っている杖をレッドドラゴンに向ける。

 氷の魔法を使う気だな。



 リズが魔法を使う前に、レッドドラゴンが再び大きな口を開いた。

 その奥から赤い炎の種がどんどん大きくなっていく。



「―――バートス! またブレスがきます!」



 リズはこのブレスが苦手なんだろうか。



 俺は6歳からゴミ焼却の仕事に就いたが、はじめはこのブレスがちょっと熱かったような記憶もある。が、それも仕事を重ねるうちに何も感じなくなった。


 だからこれは慣れの問題なんだろう。当時俺に仕事を教えてくれた親父は、ブレスなんぞまったく気にせず仕事していたからな。


 親父から「トカゲは見かけだおしのハッタリ」と教わったが、実際その通りだろう。


 リズはトカゲ自体を見るのが初めてのようだ。

 なので初見のやつらに対してなら、この派手なブレスや、やかましい鳴き声は有効である。


 相手がビビって逃げる可能性があるからな。



 だが―――



【焼却】しょうきゃくを発動する。俺の全身から炎が溢れだす。



 ――――――ボウッ!



 ―――俺にそのハッタリは通用せんよ。



 赤トカゲは、【焼却】の炎にまかれて灰となり、散っていった。


 やっぱりトカゲだ。じっくり燃やすまでもなかったな。



【焼却】


 俺はこれしか出来ない。


 ずっと、ゴミ焼却場で燃やし続けていた俺の唯一の力。



「なあリズ、これで終わりなのか?」


 あれ? 返答がない。

 リズの方を向くと、彼女はなぜか固まっていた。



 なにやってんだ?



 あ……もしかして俺が灰にしてしまったのはマズかったのか?

 ちょっと力んでしまったかもしれない。


 ミミズの時みたいに、もっと出力を絞った方が良かったか……でもそんな微調整は難しいんだよなぁ。


 魔界にいた時は、トカゲであれば複数同時に焼却することが多かったし。


 一匹に調整するとか、さすがに無理がある。


 いまだ直立不動のリズ。

 ヤバイ、本当にやってしまったのかもしれん。


 リズが聖女として討伐しないとダメなのだろうか。


 いやいや、俺はリズのお手伝いだし。聖女のお供みたいなもんだ。

 だから、お供がやったことは聖女がやったことになる。



 なるよね……ねぇ! リズ! 



 なんとか言ってくれよぉ! 



 おっさん放置しないでよぉ!



 俺はリズをユサユサと揺さぶりまくった。


「……はっ! ば、バートス……す、凄いです……」


 ようやく反応してくれたリズ。


 その綺麗な瞳は大きく見開いている。

 口もぱっくり開いていた。


「まじかよ……ずっとこの町の自警団いたけど、こんなすげぇ火魔法を見たのは初めてだ……」


 再びここに戻って来た隊長も、赤トカゲ(レッドドラゴン)の灰を見て驚きの声をあげた。


 俺、魔法は使えんのだがな……


 にしても何故ゆえにこの世界の人間たちは、赤トカゲにおびえるのだろうか?


 もしかしたら、こいつが見かけだおしということが知られていないのだろうか。

 だとしたら……



「バートス……ちょっと……え」



 トカゲよ、たいしたもんだ。


 おまえは自身が誇る最大の武器(ハッタリ)で、これまで生き残ってきたのだからな。



「バートス!」



 魔界とは違う歴史をたどってきたのだろう、人間界のトカゲたちは。



「バートス! ブツブツ言ってる場合じゃないです!」


「おお、すまないリズ。すこし考え事をしてしまっていた」


「燃えてます!」


「え?」


 ああ、赤トカゲならすでに灰になってるけど……リズはなにをそんなに慌てているんだ? 



「だから燃えてます! あなたが!」



 ―――あれ? なんだこれ? 



 俺、燃えてるじゃないか……



 ――――――ど、どうしたらいいんだ? これ。






―――――――――――――――――――


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