参考記録④ (作成時期不明)

《古ぼけた手記》


 これを手に取った生徒。

 もしあなたが今、姿の見えない何かに追われ、その存在を脅かされようとしていると言うのなら。必ずこれを読むといい。きっと役に立つ。

 しかし、これはあくまで役に立つというだけだ。

 これを読むだけであなたが災いから救われることはない。


 ゆえに、覚悟が必要なのだ。

 忍び寄る災いからただ逃げ惑うのではなく、何を犠牲にしてでも生き抜くという覚悟が。それは誰にでもできることではない。かつて私もそうだった。

 いや、私は今もまだ、あの恐怖から逃れられていないのかもしれない。

 だが私は必ず、(文字掠れていて読めない)


 やつが目覚めるのはいつも唐突だ。そこに周期というものは存在しない。

 ただ、それが始まってしまったことだけが知らされる。

 それが人形だ。人形こそがあらゆる災いの始まりの合図であり、それが発見されたら最後、もはや誰の手にも負えなくなる。


 そしてもし、楠の根本から人形を掘り返してしまったのならば、あなたは相当危険な状況にある。階段男が来るからだ。やつは必ずと言っていいほど、人形に触れた生徒を狙う。人形を掘り起こしてから、一か月以内には必ずだ。

 だが、その中身は恐らく……。いや、よそう。


 結論から言うと、階段男から逃れる術はある。

 標的を自分から他の生徒に移すのだ。

 

 とはいっても、こちらから階段男が襲ってくるタイミングを正確に計ることはできない。ゆえに、こちらからおびき出すしかない。

 やつが現れる時間帯として、統計的に多いのは夕方だ。黄昏時、或いは逢魔時と呼ばれる、午後十八時頃に襲ってくる確率が高い。

 そしてなるべく人気(ひとけ)のない場所を選ぶことを勧める。階段男に連れていかれた生徒の大半は、孤立した状況にあったからだ。

 最後に、自分の身代わりとなる生徒を用意すること。


 この条件さえ揃えることができれば、階段男の出現を誘発することが可能だ。


 そしてもし、万全の状態で事に望むことができたのなら。

 もう一人の生徒を置いて、全力で階段を登れ。


 いや、言い方を変えよう。


 もう一人を見捨てて、全力で逃げろ。


 そうすれば君は助かる。

 階段男は最初に追いついた生徒のみを連れていくからだ。


 私とて、この計画が人道に反していることは百も承知だ。しかし、そうする他にあなたが助かる術はない。幸にも不幸にも、私はそうして生き残った。

 もしあのとき私が(文字掠れていて読めない)


 私は戻ってきた。六年という雌伏の時を経て、またここに帰ってきた。過去のことは忘れて、普通の人生を歩むという選択肢があったにも関わらずだ。

 いや、本当は(文字が掠れていて読めない)

 

 近くに足音が聞こえる。だが、私とてみすみすやつの手駒になるつもりはない。

 最後に、今まで集めた情報をここに記す。 それがあの日死に損なった私が、彼に代わって唯一できることだ。


 いいか。決して脅威の正体を見誤るな。階段男は本体ではない。

 それが生まれてしまった原因になる存在がある。人類の科学では観測できないほどの、巨大な何かがだ。

 古くから日本の信仰は、人には制御できない大自然や大厄災に向けられてきた。なかには、存在を知ることすらおぞましいものもある。この高校に根づいているのは、幽霊や怪談などの、生易しいものではない。


 やつは■■■だ。


 遥か彼方から、やつはこの地に移ろってきた。

 この呪いと怨嗟の螺旋を解き放つには、この■■■がいったいどこからやってきのか、その起源を探すしかない。


 頼む。

 私には時間がない。

 すぐそこにやつの気配を感じる。


 おそろしい。


 いやちがう。

 私はついに突き止 た。


 おそろしい。


 まずい。なんだ れは

 おおそろしい。

 やめろ 近寄 な


 おそろしい。


 私は知っ い


       おおおおおおそろしい。


 やつ この地 、流 つい た  だ


(これ以降は、判読できない乱雑な文字が続いている)

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