記録④『ナガレ先生』について (2012年12月7日)
《クスノキ新聞百六十六刊 十二月号 ~先生を殺したのは誰ですか?~
ボツ案の原稿から抜粋》
さて、今年も年の瀬が迫ってまいりました!
皆さまいかがお過ごしですか? 我々新聞部も慌ただしく活動しております!
そしてなんとこの今月号では!
五つ怪談の四つ目、『ナガレ先生』の知られざる謎も含めて大公開します!
この情報はなんと、私が独自の(荒っぽく校正されていて読めない)
【ナガレ先生とは】
五年ほど前から校内で噂される、新任教師の幽霊。
本名は不明。担当科目は歴史。呪術や陰陽道、黒魔術などのオカルトに、異常なまでの執着を見せていたらしい。
着任したころから異様な言動が目立ち、夕方に校内を延々と徘徊する姿や、一部の生徒に対して過剰な敵意を向けていた姿が確認されている。また、普段は冷静だが、なぜか怪談絡みの話になるとまるで人が変わったように激しい性格になった。同僚や生徒にも変人扱いされており、当時は彼に対するいじめ紛いの遊びも横行していたという。
そんな日々にとうとう耐えかねたのか、とある朝、楠で首を吊ったナガレ先生の死体が発見される。
その情報は瞬く間に広がり、一時はマスコミまで押しかける騒動に至ったらしい。そして噂には尾ひれがつくように、生徒の間でナガレ先生は自殺ではなく、本当は何者かに他殺されたという推論が巻き起こった。
しかし、学校や警察は事の騒ぎを抑えるためにただの自殺として事件を黙殺。
結果、真犯人が野放しになっている無念が怨念となり、ナガレ先生は幽霊となってしまったのだ。放課後の校舎で気を抜くと、ナガレ先生に襲われてしまう……。
という怪談が今の主流となっているが、これには全く別の説もある。
いわく、ナガレ先生は悪霊に殺された、というもの。これは彼がオカルトに傾倒していたことに由来する。自らが追っていた幽霊の謎にもう少しでたどり着けたが、直前で惜しくも呪い殺されてしまった。それが無念で自らも幽霊となり、今もなお自分のあとを継いでくれる生徒を探している……らしい。
そしてなんと新聞部には、事件が起きた当時の取材記録が僅かに残っている。
それも見ていこう。
《生徒Aの証言》
わたし、見ちゃったんですよ。先生の死体。たぶん、他にも数人……。
あの、やっぱりおかしいと思うんです。
だってあんな…あんな死に方、絶対まともじゃない……。
《生徒Bの証言》
ナガレ先生がねぇ……まぁ、そりゃあちょっとは同情しますけど。正直そこまでは驚かないっていうか。
あ、僕は呪殺派ですよ?
先生、もともとそういうのにハマってたじゃないですか。
人を呪わば穴二つみたいな、そういうことでしょ。
《生徒Cの証言》
先生、ほんとに死んじゃったのかな。
あの、あんまり実感ないです。突然のことだったし。
私、先生のおかしな学級通信、ちょっとだけ好きだったのになぁ……。
《生徒Ⅾの証言》
許せないです。
いくら先生が変わり者だったからって、人の死をこんな推理ゲームか何かと勘違いしている人たちが。
誰があんなむごいことを……。
先生、事件の前からちょっとずつ顔色が悪くなっていって、ときどき思いつめるような表情をしてました。
なのに私、何もしてあげられなかった……。
《生徒Eの証言》
先生、やっぱりだめだったんですか。
いや、事件に関わってたとかじゃなくて。
僕わりと霊感ある方なんですよ。
なーんか最近臭うなーと思ってたら、案の定、ねぇ。
あと、あんまりこういうのは記事にしないほうがいいですよ。
自殺なら、自殺ってことにしといてください。
まぁこの学校自体がダメっぽいんで、もうどうしようもないんですけど。
ははははは。
《生徒Fの証言》
だから自殺だって何回も言ってんだろ? なぁ。
どいつもこいつも幽霊だの呪いだのぬかしやがって。
今どき寒いんだよそういうの!
(Fがいきなり階段のほうへ振り向き、数十秒沈黙)
自殺だから自殺だから自殺だから自殺自殺じさつ………………。
(これ以上は取材できないと判断して撤退)
いかがだったろうか。新聞という媒体上、セリフに多少の脚色がなされていることは否めない。だが、正真正銘当時の記録である。また、実のところ階段男と違って、ナガレ先生が生徒に被害を及ぼしたという噂はほとんど聞かない。
大半は『いきなり地面から這い出てきた』や『こちらを指さして立っていた』など、まるで何かを伝えようとしているようにも思える行動ばかりである。
いったいナガレ先生が追い求めていた謎とはなんなのか。
その真相を知るものは誰もいない……。
もしあなたがうっかりナガレ先生と出会ってしまったのなら、一つ尋ねてみるのもいいかもしれない。
『先生を殺したのは誰ですか?』、と。
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