第34話 それぞれの戦い(前半、ルイス視点、後半、キャンベル視点)
「今こそ革命を!」
「我らが真の王に勝利を!」
「「「「応!!!!」」」」
一斉に剣が上がる。
僕は自陣の真ん中で一際高く剣を翳した。
柄を持ち直し、攻め入る目的地である王城を見た。
「まさか、僕本人が乗り込んでくるとは思わないだろうなあ。僕がなぜ自ら望んでブラックアーマーになったか、それは、お前らの首を自分で獲りに行きたいたいからだ!!!」
かつて父の側近だった者たち、次に命を狙われたであろう者たち、その親族累々、私の元に集った私兵達は馬を乗りこなし、土埃を上げて王城に向かった。
馬のいななく声、昂った声、それはものすごい轟音となる。
どこの民家も戸をピッタリと閉ざしているのを横目に、一直線に王城を目指した。
いつも夜になると思い出す。
母は死の間際、私を抱き抱えたこと、その温もりを。
父の怨念めいた悲痛な顔を。
兄達の、訳がわからず死んでいく様を。
けれど、それも今日で終わる。
「キャンベルが偽物だって?偽物はお前達だ!!」
先にたどり着いた者達が、大きな金槌で王城の門を叩きまくる。
それは呆気なく開いてしまった。
雪崩のように押し入り、衛兵達を馬が薙ぎ倒していく。
「門はもっと強靭なものに改修しよう」
そんなことをポロリというと
「柄にもありませんね、焦っていらっしゃいますか?」
と隣にいたハイデが聞いた。
そうかもしれない、と思った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
『キャンベル、遂に明日で十日目だね』
ハイドレンジアったら、今日はやたらそればっかり言う。
「明日、何かあったかしら?」
『キャンベルと私が夫婦になる日さ』
「本当?」
『そうだよ。なんて喜ばしいことだろう。君を愛しく思って苦しむ日々が終わるんだ』
ハイドレンジアが私を後ろから抱いて離さない。
「喉が渇いたわ。離してくれる?」
『だめ。喉が渇いたなら、私が飲ませてあげる』
とそう言って、水を含んで口移ししてくれる。
溢れた水が滴って、着ていた神服を濡らした。
「服が濡れてしまったわ。ねえ、ハイドレンジア」
ぎゅうと強く抱きしめられた。
金色の髪が私の肩に埋まる。
『キャンベル』
「ふふ、くすぐったいわ」
『キャンベル…キャンベル…』
ぞわっ
「や、やめて…」
ハイドレンジアは私の事を見つめた。
「えっと…?え、あれ?私…あれ?」
『ちっ…』
「ハイドレンジア?うーんと…あれ?私、何か忘れて…?」
『キャンベル。私の目を見て?』
「あの、っていうか神様と人間って結婚できるの?」
はあ、とため息をついてハイドレンジアは立ち上がった。
『天地開闢以来、人間を娶った神などごまんといる』
「でも、私なんかが…あれ?どうしてだっけ…?」
『君が産まれた時からずうっと想っていたよ。私が君をどういう目で見ていたのか、そろそろ気づいてくれないかな』
寂しそうな笑顔が向けられた。
その顔に弱い事を、多分知っているんだ。
「ハイドレンジア、ごめんね」
ぎゅうと抱きしめられた。
『十日経てば、君は現世に戻れなくなるんだから。あと一日我慢して?ね?』
「我慢?何を我慢するんだっけ?」
頬に手が添えられて、くちづけを受け入れる。
それで私は立っていられなくなってしまう。
「ねえ、ハイドレンジア、私あのスコーンが食べたいわ」
『もちろんだよ、いくらでも焼いてあげる』
少しはだけだ胸に頭をもたげた。
ハイドレンジアは、果てがないほど高い空を見上げていた。
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