第33話一夜を過ごす(ルイス視点)

窓の外から室内に入り、キャンベルをそっとソファに座らせると、子リスやその親リス、ウグイスやらが一斉に外に飛び出して行った。

足の下をちょろちょろと小動物達が這っていったので、よたついてしまう。

「なんだよ、いたのかよ。もう少し歓迎してくれても良いだろ」


見れば、キャンベルの洗濯物は畳んで置いてあった。

あの動物達がなんとか畳んだのだろう、一生懸命さは伺えるがぐちゃぐちゃである。

一方、僕の洗濯物は、外で風雨に晒されて乾いたり濡れたりを繰り返して、パリパリである。

欄干に止まっていたウグイスが首を傾げている。

「良いよ良いよ、キャンベルのが無事なら。お前達は良い奴らだな。キャンベル、君は本当に動物に愛されているんだ、見てごらん」

振り向いたキャンベルはやはりぽかんと空を見つめている。

「あ、そうだった…ごめん」


ウグイスは反対に首を傾げた。

それから、キャンベルの肩に乗って頬擦りしてから、部屋を一周して窓から飛び立っていった。


瞬間、ぴくり、とキャンベルが動く。


「っ!!キャンベル!?」

思わず揺すってみる。

けれどやっぱり何の反応もなかった。

がっくり肩を落として、ため息をついた。

少しだけ開いた唇の赤さにドキッとして、目が逸らせなくなる。


「…ハイドレンジアにくちづけされたんだろう?」

指で顎を掴む。

ここで僕がくちづけするのは簡単だろう。

けれど、僕は--

「君が起きたら、ちゃんと求婚したいんだ。君もちゃんと向き合って欲しい。もし1ミリでも僕に気持ちがあったなら、その時は…くちづけを許してくれるかな」

キャンベルの頭を抱き、しばし目を瞑った。


それから僕は、数日間空けていた部屋の掃除をして、その日は眠った。

はじめて来た日と同じ、壁に背をつけて。






夢も見なかった。

目を擦ると、ぼやけた景色に色がついていく。

キャンベルの横顔に朝日が当たって、それがすごく美しくて切なかった。

ふっと微笑みかける。

「…おはよう」


当然返事はない訳だが。

出立の朝というのはいつも、空気が澄んでいる気がするのはなぜだろう。

ここにいつ戻って来れるか分からない。

けれど

「極力寄るよ。本の約束もあるし。君の好きそうな本を見つけたら買っておかなくてはな」

固まった手を取って頬を寄せた。

「早く読んでくれなくては、どんどん積み上がってしまうぞ。…それはそれでキャンベルは喜ぶのかな」

ぎゅっと握った手をそっと離して、窓辺に立った。

「行ってくるよ」


ウグイスと子リスとその親リスが欄干に止まっている。

「キャンベルのこと、よろしく頼むよ。僕もたまには来るけど、その時は少しくらい歓迎してくれ」


僕は振り返りもせず、塔から飛び降り、森を走り抜けた。

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