第28話神様は、いる

「おい!これは何事だ!!」


ハイドレンジア様は、なんとも興味がなさそうに横目でそれを見た。

『おや、君たちはこの国の王と王子、かな。元気だった?取り敢えず、危ないから下がっててね』

「なんだ貴様!!!誰だ…」

その瞬間、国王は足が震え、立っていられなくなった。

「父上!!…貴様、父に何をした」


にっと微笑んだこの国の神は、いつの間にか王太子の前にいた。

「っ!!!」

衛兵達が槍を向けたが、彼らも足が立たなくなる。


『我が国を治めるべき子らよ。私は激怒している』

「なっ…アッ……」

『なぁーんてね。私は意外と寛大でおおらかだからね』


結局、王太子も立っていられなくなり、その場に膝をついた。

『神様なんて、いないと思った?』

「神、だとっ!?ふざけたことを…」

細い指が王太子の顎を掴む。

しかし、なおも神を睨んだ。


『…君たちのこと、嫌いだなあ』


ハイドレンジア様は、くるくると二回転しなからこちらに戻る。


『さぁて、お目覚めかな?』


セイレンは、ぽやんとした顔になると周りをきょろきょろと見渡した。

「あら…?ここは…。ああ、ルイス様がお部屋を変えてくださったのかしら?」

その場にいる誰もがセイレンの目覚めを緊張しながら見守った。


ハイドレンジア様はセイレンの顎を掴んで自分の方に向かせる。

『やあ。悪いけど、私あんまり人の区別がつかないんだ。君がセイレン、だったね』

「なっ……」

何か文句を言おうとしたけれど、目を見開いたまま瞬きすらできないといった風だ。


『私の国に悪魔を召喚したのは、君だね?セイレン。うーん、お仕置きが必要だなあ』

ハイドレンジア様は何かと喋っているように、うんうん、と頷く。

『それから君はキャンベルに意地悪したのかな?それは…許せないなあ』

と言って首を振った。見たこともないほど恐ろしい笑顔だ。


「なによ、アンタ…さっきから……誰なのよ!!!」

『私?私はハイドレンジア。この国の"神"だよ』

しばらく不在だったけどね、と続けた。

これには国王が叫んだ。

「ばかな!!ハイドレンジアは女神なんだろう!?どう見ても"つるぺた"じゃないか!」

『国生みの神というのは、どうしても地母神みたいな扱いになりがちだからなぁ。ご期待に添えずごめんね、見ての通り男神だよ!』

なんだか、パパーンという効果音が聞こえた気がする。精霊達が気を遣って現れて、星を降らせた。

精霊自体久しぶりに見るというのに。


(いや、見ての通りって…中性的過ぎて…)


「神などいるものか…ならなぜ今まで現れなかった」

王太子は悪態をつく。彼らには精霊の姿すら見えない。

けれど、神様は心底どうでも良さそうに手をヒラヒラさせている。

『別にどうとでも思ってくれて良いよ。君たちが私を見られるのは、身体という物質を借りてるからさ。キャンベルは小さい頃から私のこと知ってるもんねー?』

私はこくこくと頷いた。


「キャンベルキャンベルって…どいつもこいつも…五月蝿いのよ!神なら何とかしてよ!頭の中で悪魔が喚いているのよ!!早く何とかしなさいよ!!」

喰いかかるような勢いで叫ぶセイレンの頭をがっしり掴むと、

『出ておいで。君は…ああ、エストリエかな。逃げちゃダメだよ。逃げられないよ』

みるみるセイレンの身体が黒く染まっていった。

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