第27話くちづけ(前半、ルイス視点、後半、キャンベル視点)

「さて、」

キャンベルに耳打ちする。

彼女は頷き、セイレンの前に立った。彼女は時折、騎士である僕より勇敢な姿を見せる。

その唇から紡がれるのは、小さな歌声の祈り歌。


〜♪


「おい、勝手なことを…」

衛兵が阻止しようとしたが、"キャンベルがそう願ったので"瞬時に固まってしまう。

見れば、セイレンも笑顔のまま固まっていた。

僕は素早く衛兵の腰から牢の鍵を取り上げ、騎士達総出でセイレンを担ぎ出した。

キャンベルも手伝おうとしてくれたが、それはやはり野郎どもが制した。

キャンベルはやや焦ったような顔を向ける。

「ルイス様、彼女をどこへ連れていくのですか?」

「君が勝手知ったる場所さ」


セイレンを落とさないよう、登り階段を慎重に登る。

王城からさほど離れていないそこは、この国の神を祀る神殿だ。

ハイドレンジア女神の像を横目に見る。キャンベルは、何か思うところがあるのか、眉根を寄せてそれを見ていた。


石造りの広い神殿内は、天井が玻璃の飾り窓になっていて、七色の光が降り注いでいる。

その神殿の中央に、固まって動かないセイレンを静かに置いた。

みんなの間に緊張が流れる。


「ルイス様、もうすぐ彼女は目覚めます!もしも今悪魔が蘇ったりしたらどうするのですか!?」

キャンベルは慌てて私に問うた。

「まあ、あちらから来るのを待とうと思っていたんだけど…」

言って頬を掻く。

「まさか…こちらに悪魔を呼ぶ方法があるということですか?」

「君は聡いね。だが、これはセイレンの体が回復しきっていないのに悪魔を呼びだすということだから避けたかったのだけど。でも君が危ない目に遭うなら話は別だな」

「え?」


すう、僕は大きく息を吸った。





✳︎ ✳︎ ✳︎





ルイス様が大きく息を吸った瞬間、その瞳の黄金がより輝きを増す。

彼の周りを取り巻く"気"の様なものが輝きながら上昇し、それから彼の周りを旋回し始める。


しゅるしゅるしゅる、

と衣擦れの様な音がしたかと思うと、ふんわりと白い布がルイス様を包んだ。

次の瞬間、ルイス様は長い金色の髪になった。

またその次の瞬間には、とても人間とは思えないほどのオーラと顔立ちの、男とも女とも分からない誰かになっていた。

その人は開口一番言った。

『やあ、久しぶりだね、キャンベル』

「え!?」


(誰!?ルイス様は!?)

騎士達も同じ様に呆気に取られている。彼らも初めて見る光景らしい。


『どう?表の像、全然似てないでしょ?』

「え!?あ、まさか…」

この国の守神、ハイドレンジア様であるというのか。でも、ハイドレンジア様は女神ではなかったか?


『ふふ、私のかわいいキャンベル』

春風のように柔らかくふんわり近づくと、私の顎を掴んで口付けした。

「!!!?」

『ルイス君が知ったらぶっ飛ばすかなあ』

「え?あの????」

『色んな疑問は後回し。今は先に"あれ"を片付けなくては。…でも』

ハイドレンジア様はにこにことして言った。

『私が、ずっとキャンベルのことを思っていたことは知っていて。"彼"もね』


ああ、そうか。緑の虹彩に黄金の瞳。紛うことなきハイドレンジア様ではないか。

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