第24話穏やかな夢

「おはよう、キャンベル」


朝の光がキラキラと乱反射している。

むにゃむにゃと目を擦った。

「お母さん…?」

「朝ごはんよ、着替えて顔を洗っておいで」


なんだか長い夢を見ていた気がする。

水桶から掬って顔を洗うけれど、いつもより上手くできない気がした。

置いてあった母の髪留めで前髪を留めようとすると、後ろから父に声をかけられた。

「お!キャンベル、今日はおめかしさんか?」

「違うもん」

「母さん!キャンベルに髪留め貸してやってくれよ!」

父は、台所にいる母に向かって大きな声で言った。

「あらあら、なあに?」と言いながら母が急いでやってきて、それから「貸してごらん」と言って髪を留めてくれた。


「うんうん、別嬪だなあ!」

「なによう、変なこと言わないで」

別に髪を留めたかっただけなのに、大袈裟だ。


ネズミがひょこりと桶の裏から顔を出したので

「お母さんに見つかったら酷いから、出ていった方がいいわよ」

とこっそり言った。

ぺこりとお辞儀をして、ネズミは窓から出て言った。


「キャンベル、またネズミを逃してんのか?」

父が背後から言ったのでびっくりした。

「…お母さんには内緒にしてよ」

「わかったわかった、母さんはネズミ嫌いだからな。さあ、飯にしよう」


目玉焼きと、チーズと、それから屑野菜のスープに、焼きたてのパン。

ほかほかの熱々のうちに食べなければ。

けれど、うちはお祈りが長いのだ。


「神様、今日も我らに糧をお与えくださりありがとうございます云々」

この国の神様に、感謝のお祈りを捧げる。

神様は本当にいる。

時々私に話しかけてくるから知っている。

でも今はここにいないから祈ったって意味ないんじゃないかなあ、などと思う。

でもいつもやってるから、私も合わせる。


前に神様が言っていた。

「この土地の生き物はみんなお前と話ができるよ」って。

そういえば、最近神様見ないなあ。

どこに行ったんだろう?


「さあ、いただきましょう」

母がにこやかに声をかける。

待ってましたとばかり、温かいスープに手を伸ばす。


(あれ?)

全然温かくない。

(冷めちゃったのかな)


ふかふかパンに手を伸ばす。

母のお手製だ。

あーん、と口を開けた。

ふかっ

(あれ?)

食べ応えがない。







太陽の光が目に刺さる。

朝だ。

「ルイス…様」

机に伏して、すっかり眠っていたらしい。


「やあ、疲れていたみたいだから起こさなかったよ。何やら口をパクパクしてたけど、何か夢でも見ていたかい?」

「私、眠っていましたか。朝…ですね。ルイス様は休まれなかったのですか?」

「うん?君の寝顔を見ながら考え事さ」

「それは…申し訳ありません」

ふふ、と笑っているので首を傾げていると


「顔に跡ができている。今度から机に伏して寝る時はクッションか枕が必要だな」

「…そうしたらもうベッドで寝たいですが…当分そうもいきませんね」

「そう、それについて…騎士団の仲間に声をかけて交代で見張り役を立ててもらうことにした」

「見張りなら衛兵がいますけれど…」

「いやいや、やはり普段戦闘しているものと、ただ立っているのが仕事の者では即戦力に差がある。何があるか分からないからな。何より、何か変事があれば、こちらがすぐに分かるよう迅速に報せてもくれる」

「ルカ国の騎士団を城に入れてくれるでしょうか?」

「さあな。だが、交渉するしかない。なにせ、国の一大事に逃げ出そうとした国王と王太子だぞ。もう何でもいいんじゃないか?」

「そうでしょうか…」

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