第23話祖国に対する想い

「一番の難関は、悪魔の名前を悪魔自身から聞き出す、ということですね」

「100年前にこの地を蹂躙した悪魔と同一ならば"エストリエ"という悪魔だけれど…それでも直接名前を質さなければならないみたいだな」

「曽お婆様はどのように聞き出したのでしょう?」


ルイス様は深く思い悩んだ横顔で腕を組んでいた。

やがて

「まあ、そこは本には書いてなかったが……僕に任せてもらえるか?」

「えっと…」

「それよりも問題はいつエストリエが再びやってくるのか、ということさ」


確かに、事態を聞きつけてから駆けつけたのでは出遅れる。いつでも万全の体制で待ち構えていなければならないだろう。

「…セイレンに憑依するエストリエを、二人して24時間監視している訳にも参りませんね…」

「僕は3日半なら耐えられるが、その限界点を超えない保証はないし、ましてや君にそれを強いることはできない」

「無茶を言います…いくらブラック・アーマーとて人の子なんですから」


「ふうん」と言って頬杖をついた。

緑と黄金の瞳で私をじっと見ている。

「君は、自分の心配をしないのかい?」

「私の、ですか?」

「だって君、魔塔でお気楽に暮らしたいと何度も言っていたじゃないか」

「ええ、まあ」

「この国がどうなってもいいのだろう?」


私は笑った。

「変なことを仰いますのね。私がどうなっても良いと思っているのはセイレンや王太子、国王も含めて私を蔑んだ人達全員です。この国の土地が穢されるのは許せない」

「へえ?なぜだい?」

「なぜって…?私が生まれ育った故郷だから。私がどんなに蔑まれても祈り歌を歌い続けた理由はこの国の安寧にこそあります。父母が眠るこの地は、永遠に平和で安らかでなければならない」

「君、そんなことを考えていたんだね」

「そんなこと、でしょうか?死んだ人間は土の下から動けないでしょう?」

「あ、いや、失礼した。そうではなくて…立派だ、とても」

ルイス様が私の手を取って続けた。

「てっきり君はのんびりぐうたらしたいだけのお気楽な人だと思っていたから正直驚いた」

「うっ…それも図星なのですが…」

「でも、」握られた手が、少し熱を帯びる。

その先の言葉を知りたくて唇に目がいった。


(八重歯…気付かなかった)


一緒に暮らしていながら今更そんなことを知るなんて、私は本当に人のことに無関心なのだなと嫌になる。


「キャンベル、そんなにじっと見つめられると…恥ずかしいじゃないか」

「え?あ、ごめんなさい」


思わず手を引っ込めてしまったので、ちょっとだけ惜しい気持ちになる。

ルイス様は片手で口元を覆っている。耳まで真っ赤である。


「ごめんなさい、あの、じっと見たりして…」

「いや、良いんだ。あんまり近くで見つめるから……っなんでもない、忘れてくれ」


なんとなく落ち着かない雰囲気が流れる。

私は、あわあわと議題を戻した。

「そっ!それより!悪魔の名前を聞き出す方法を何かご存知なのですか?」

ゴホンゴホンと何度か咳払いしてルイス様は頬を掻いた。

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