第22話私のことが好きなのね(セイレン視点)
"ルイス様"
カラスの様に艶やかな黒髪と、遠目からでも分かる精悍な顔つき。
シャープな線の割に男性らしい体つき。
(サハリン王太子と対等に渡り合っていた。きっと高貴な出自の方だわ。その殿方が私を庇って下さった!ならば、私を想ってくださっているということだわ!?)
でもどうも見たことがない方だ。
この国の貴族ならば一度はお見受けしたことがあるだろうし、王族ならば尚更私が知らないわけもない。
(ならば他国の方?であれば、私を見初めてくださったのは、バルコニーで歌っていた時よりも前かしら?)
他国の高貴な方が御出でになるとあらば、聖女に一声かかるだろうけれど、そんなことはなかった。
と、いうことはそれ以前何かの折にお見かけしたのかしら?
でも、あの出たち、一度見たら私が忘れるはずもない。
なぜなら私の好みのど真ん中なのだから。
(脇腹の刺し傷は何故ついたのか良く分からないけれど、悪魔に乗っ取られたせいで、キャンベルに傷を治してもらうなんて屈辱すぎるわ。まあ、でもルイス様と結ばれるためなら仕方ないわ)
「ふふ、ふふふ…ルイス様」
つう、とその脇腹を撫でた。ほんの少しだけ茶色い痕になっている。
(どうせなら、もっとうまく直しなさいよ)
それにしても、サハリン王太子は殺しても殺したりないくらい。
愛情が憎しみに変わるというのは本当なのだ。
あんなに私に夢中だったくせに、ちょっと自分の立場が弱くなったら簡単に私を蹴落とす。
蹴落とすどころか断頭台にまで上げさせられた。
今だって、結局私は地下牢に閉じ込められている。なんでも悪魔が戻ってきたら困るかららしい。
身体を乗っ取られたのは私だと言うのに。
被害者は私なのだ。おまけに瀕死の怪我まで負って。もっと丁重に手厚く扱うべきである。
私だって好き好んで悪魔に乗っ取られた訳じゃないというのに。
みんなで私を悪者にする。今まで歌ってやった恩義も忘れて、「聖女様」などと崇めていたのに手のひらを返して。
確かに私は聖女ではない。でもそれは騙される方が悪いし、そもそも平民のキャンベルが聖女だからと偉そうにするのがもっと悪いのである。
(髪の毛がベタつく)
湯浴みもまともにできていない。
髪の毛が絡まって仕方ない。適当に手で解していると、脳裏に悪魔に乗っ取られた時の記憶が少しだけ蘇る。
私であろう手が、見たこともない女の髪を掴んでいる。その女は泣きながら舌を噛んで絶命した。
(?変なの)
サハリン王太子が来たら、恋人同士だったことを盾に境遇の改善を申し出ようと思う。
それより早くルイス様にお会いしたい。
それまでにちゃんと小綺麗にしておかなくてはいけないわ。
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