第21話断頭台で(セイレン視点)
私は今、断頭台に首を挟まれようとしている。
あんなに私を称賛していた国民達は皆、手のひらを返す様に私に向かって石を投げた。
「悪魔め!!」「死ね!」「殺せ!!」「5歳の息子は泡を吹いて死んだ!!報いを受けろ!」「国民を馬鹿にしやがって!!お前の甘い歌声は我々を傀儡にする為の罠だったか!」
罵倒が一気に降り注ぐ。色んな声が重なり合って、高い高い悲鳴の様に聞こえる。
それはまるで私の一オクターブ高い祈り歌そっくりだった。
見れば、首斬り斧が太陽の光を反射して、それでも冷たく光っている。
私は一喝した。国民に罵倒されながら死ぬなど伯爵令嬢の矜持に反する。
「黙りなさい!蟻一匹でも大群になれば随分と態度が大きくなるものね!?」
ごぼっと吐血して、ひゅうひゅうと肩で息をした。
しん、と水を打ったように鎮まる。
衛兵が私の髪を掴み、地面へと擦り付けた。
わあっ!と一気に歓声が巻き起こる。
人の処刑に興味津々だなんて、どちらが悪魔なのか。
(死にたくない!こんなところで!こんな死に方したくない!)
強く心から願ったその時
「その処刑、待たれよ!!」
男性の大声が響いた。
黒髪の美男子がキャンベルと共に駆け寄ってきた。
悪魔が体を乗っ取っていた時の記憶をうっすらと思い出す。確か"ルイス"と呼ばれていなかっただろうか。
「何事か!処刑を止めるなど、その責を問われることになるのは覚悟の上だろうな!?」
サハリン王太子が詰め寄る。
だが、ルイスと呼ばれていたその人はサハリン王太子と対等に渡り合う。
「悪魔の最後の言葉を聞いただろう!?今セイレンを殺せば、この地に禍いが齎されると」
その言葉に国民が大いに騒ついた。
「うるさい!この国のことなど知ったことか!」
と言ってサハリン王太子は自分の失言にハッとしている。
聴衆は静まり返り、息を呑んだ。
ぽつりぽつりと「今の聞いたか?」「あの男は誰だ?」「おい、キャンベル様がいるぞ?」などと潜めた声が聞こえてくる。
それは次第に大きな騒めきとなり、大ブーイングが起こった。
「王族ともあろう者が国を売ろうとしているぞ!」「自分だけ助かろうなんて、国民を馬鹿にしやがって!」「男も女も武器を持て!王城を攻めよ!」「そうだそうだ!!」「やっちまえ!」
そのブーイングに対し、キャンベルが叫んだ。
「貴方達、待ちなさい!私は今こそ聖女としての役目を果たします!貴方達の気持ちはよくわかる…でも、今はみんなで力を合わせましょう!共に悪魔を封印するのです!」
サハリン王太子も、ただことの次第を見つめていた国王も黙るしかなかった。
「傷を、病を癒しましょう」
キャンベルの、本物の聖女の祈り歌だ。
どこからか、「聖女様」と縋る声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます