第17話君に助けてもらった命(ルイス昔語り)
父はこのハイネット王国の王太子であった。
母はルカ国の公爵令嬢だ。
厳しく育てられたけれど、それは僕が三人兄弟の末っ子だったから。
いずれ王となる長男を支えられる様に、また権力争いに巻き込まれても自分の力で未来を切り開いていける様にと三人の中で一番厳しく育てられたと記憶している。
僕は父のことを、また当時の王であった祖父のことを尊敬していたし、母にはべったりだったと思う。
厳しかったけれど、決して突き放した様な厳しさではなかった。
愛情を持って接してもらった…と思う。
何不自由なく幸せだった。
一つだけ、
ただ一つだけ家族になんとなく影をさす存在があった。
祖父の庶子である伯父とその子ども、僕の従兄弟にあたるサハリンである。
傲慢を絵に描いたような男と、いつも不機嫌そうな少年。
伯父が私の母に気安く触れようとして、父が激昂したのを覚えている。
後にも先にも父があんなに憤怒したのはその時だけだ。
祖父もなんの負い目があるのか、伯父に対して強く出られないのだろうなというのは幼心に思ったことである。
だが、そんな祖父がいたことで保っていたパワーバランスでもあった。
祖父が亡くなったら、きっとこの男は自らの権利を大声で主張するだろう。
そうなった場合、勿論父と伯父で派閥が二分するなどということはないだろう。
なぜなら父が国王に相応しいのは明らかであるし、祖母の、正妻の子であるのだから。
祖父が崩御し、葬儀が滞りなく終わろうという頃である。
国王の遺体は海に還すのが王国の通例であった。
海が冥界に一番近いとされるため、迷いなく冥府に行ける様にという願いが込められているからだ。
海沿いの街に、暫く滞在した。多くの護衛がいたはずだ。
ところが、立ち寄った邸宅で父も母も兄も、そして僕も急に強烈な眩暈に襲われて倒れた。
瀕死であろう母が僕を抱き寄せた。
その隙間から父が白目を剥いているのが見えた。ああ、もう生きていないんだなと思った。
気がつけば兄達は皆仰向けになって泡を吹いていたし、母もいつの間にか息をしていなかった。
(僕もこのまま死ぬんだ)
とそんなことを思って目を閉じたその時、部屋の外、扉の前で護衛にあたっていた衛兵が中の異変に気づいたのだと思う。
街中が大騒ぎになったらしい。
まだ幼かったキャンベルもご両親に連れられてその騒動を見に来たようだ。
その見物人の中にいたキャンベルが歌を歌った。
その幼い歌声は鮮明に思い出すことができる。
あれは、聖女の祈り歌だ。
きっと王城で聖女が歌うのを聞いたことがあって覚えていたんだろう。
それで、僕だけは回復した。
父も母も兄達も、もう二度と目を覚ますことはなかったけれど。
これは間違いなく伯父の陰謀である。
僕は一人だけ護衛をつけて、すぐに母の故郷、ルカに隠遁した。
可哀想に、キャンベルはそれがきっかけとなり王城に連れて行かれたらしい。
来る日も来る日も歌わされて、親の死に目にも会えなかったようだ。
僕を助けたために。
後日、父の急死の報せだけはルカにも届いてきたが、それ以外は全く公表されなかった。
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