第15話求婚する!
数日間の雨で溜まった洗濯を、二人でやっつける。
勿論、自分のものは自分でやる。
「2、3日は雨だったな」
「すっかりお日様が出てくれて嬉しいですわね」
とてもうら若い男女の会話とは思えない。
窓辺から、子リスがひょこっと顔を出したので駆け寄った。
「あら!最近顔を見なかったから寂しかったのですよ?もしかして、ルイスがいて警戒してたの?」
「ルイスだ、以後よろしく」
子リスは耳をピンと立てて、背筋を伸ばすと、木の実を置いてすぐに去ってしまった。
「あれは…完全に嫌われたな」
「どうしたんでしょう、人懐っこい子リスですのに」
「嫉妬じゃないか?」
「また変なことを言って」
「言っておくが、普通、リスというのは人間を警戒するからな」
「そうなのですか!?」
「聖女の力なのかもしれないな」
自分ではとてもそんな力があるとは思わないけれど、確かに、動物には好かれる方だと思う。
ルイスが急に蹲った。
「くそーーー!僕は動物が大好きなんだ!悔しい!」
「あらあら、意外な一面ですわね…」
「本当は犬や猫を飼ってみたいんだが、遠征があるだろう?なかなか叶わないんだ…」
「ご家族にお世話を頼めば…」
ルイスは不貞腐れながら立ち上がると、洗濯を再開した。
「世話を頼める家族はいない」
「そう、なのですか。ごめんなさい」
「別に謝る必要はないさ」
ジャブ、とタライに張った水が音を立てる。
(そういえば、あまりルイスの話を聞いたことがない。私も私自身の家族のことなど話したことがない)
少しだけ感傷に浸っていると、ばしゃりと水がかかった。
「ちょ、やめて下さい!」
手に頬を乗せて、悪戯の笑顔を向けられた。
「もう!子どもじゃないんだから!」
まったく、と思いつつ、先に干していたタオルが乾いていそうだったのでそれを取ろうと手を伸ばす。
太くて筋肉がついた長い腕に先を越された。
「ん、すっかり乾いているな。こんなに晴れているのは、ありがたい」
と言って、濡れた私の髪にタオルをふんわりとかけてくれる。
なぜだか、どきり、とした。
ルイスは、じいっと私を見て動かない。
(どうしてそんなに見つめてくるんだろう?)
タオル越しにしっかりと包み込まれた両手は、私を離すまいとしている。
(綺麗な目)
けれど、何を思っている瞳なのか分からず困惑する。
ルイスが「君は…」と何か言いかけた時、下から大声が発せられた。
「キャンベル!!!!今すぐ!今すぐ…登城せよっ!!!キャンベル!!!」
思わず、私もルイスも下を覗き込む。
サハリン王太子と、数名の護衛がいた。
なぜか一様に膝をついている。
私たちを見たサハリン王太子は驚愕して叫んだ。
「誰だ!その男は!ふしだらな女め!貴様!私と婚約を破棄したからと……」
何かに気づいた王太子は目を見開いている。
ルイスは胸を張って王太子に叫んだ。
「久しいな!サハリン!今頃戻ってきたって遅いぞ!」
「なんだと!?」
「キャンベルは渡さない!」
私は何が何だか分からない。
「どういうことなのです!?」
と言いながら彼の腕を掴んでゆする。
「ああ、良い眺めだなあ、サハリンよ!よく聞け!そしてお前が証人になれ!!」
「なんだと!?」
ルイスは一際大声で言った。
「私はキャンベルに求婚する!」
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