偽物はどちらなのか

第2話馬鹿な女(セイレン・シャンドラ伯爵令嬢視点)


なんて馬鹿なの、キャンベル・ノイージア!!!


平民のくせに、聖女の力なんて発揮するから悪いのよ。


(ほんと目障り)


でもその目障りは、あっさり魔塔に囚われた。

今日からは私がバルコニーで祈り歌を歌ってあげるのよ。

病める人、怪我をしている人、心寂しい人、それだけじゃない、たくさんの国民へ、国中に向けて。

ただ歌うだけで、聖女だなんて崇めてもらえる。

なんて簡単で、見返りの多い仕事でしょう。


((少しずつ時間をかけて、心を蝕んであげるわね))


「え?今のは…なに?」


何か変な事が浮かんだ。


(まあいいや)


それから私はバルコニーに立つと、ルルララと美声を披露した。


なんという沢山の羨望の眼差し!

もっともっも喝采を!!


昨日まで、ここにはキャンベルが立っていた。今は私が立っている。なんという快感なのかしら。


「ああ、心地よい…君の声はなんて甘いんだ、セイレン。これからは毎夜、君の歌声で眠りたいくらいだよ」


傍で聞いていたサハリン王太子は酔いしれた顔をしている。


(何でも手に入れているオトコって本当に素敵よ。私は黒髪が好みだけど、貴方は金髪だから…そこが残念よね)



「おい、なんか…」「なに、気持ち悪い」「吐きそう」「俺は頭が痛い」「うっ…でもこれが真の聖女の力なんだろ?」「今まで偽物に毒されてたから、毒出ししてるじゃないのか?きっと」「なるほど」


私を見ようと今までにないくらいに王城が賑わいを見せている。ざわめきがあちこちで起こった。


「セイレン様は本当に美しいわね」「キャンベル様が地味だからなおさらだ」「俺、毎日王城に通おう」


そうよ、もっと崇めなさい。もっと讃えるの。


太陽が翳る。夕方から雨が降るかもしれない。


馬鹿みたいに鼻の下を伸ばして、こちらを見ている貴族の男たちもいる。なんて単純なのかしら。


(どう?私は美しいでしょう?素晴らしい歌声でしょう?聖女に相応しいのは私でしょう!?)


地味な平民のキャンベルが私の欲しいもの、全部持っていくから悪いのよ。

あるべき場所に戻っただけのことだわ。


ふんわりとお辞儀をすると、ため息が漏れた。

サハリン王太子は私の腰に手を当てて、国民に向けて手を振った。


「皆の者、よく聞け!真の聖女、セイレン・シャンドラ伯爵令嬢だ。そして彼女は私の婚約者である。病めるもの、怪我をした者、心寂しき者よ、今日より真の聖女が真の癒しを与えよう!この国の更なる繁栄は約束された!!」


わああああ!!


国民たちはみな一様に歓喜し、お祭り騒ぎのような一日が終わった。

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