魔塔に幽閉された偽聖女なのに、今頃助けてなんて言うの?
あずあず
プロローグ
第1話婚約を破棄する!
「あら、こんにちは、ウグイスさん。今日はさくらんぼを届けてくれたのね?ありがとう。リスさんも木の実をありがとう」
ウグイスは部屋を一周羽ばたくと、窓の外、遥か先へと空に飛んで行った。
つられて祖国を見つめる。
少しでもこの国に平和が訪れる様にと、森を抜けた先、遠くに見える王城に向けて祈り歌を歌った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「お前の歌は頭が痛くなる。キャンベル、お前は本当に聖女なのか!?疑わしいな」
「そんな、サハリン様…これは聖女の祈り歌、決して害そうなどと…」
私は彼へ手を伸ばす。
「婚約者だからと、気安く触るでない!…フンッ、お前の力は眉唾物だな」
サハリン・エンパイア王太子殿下、私の婚約者。
お互いが好き合って婚約しているわけではないけれど、幾度とない高圧的な態度に傷つかない訳もない。
私は祝福の聖女。
この国の全ての人に対する治癒を一人で行っている。
一人ずつ診ていては当然追いつく訳もなく、王城のバルコニーで正午の報せと共に国民に向け祈り歌を捧げた。
(100年前には5人の聖女が居たというけれど、この時代には私一人…)
荷が重い、というのが本音である。
(どうか聖女が新たに誕生しますように…)
そうすれば、持ち回ることだってできる。
私の喉は限界だった。
祝福の聖女は自らにその力を発揮しない。
聖女同士ならば治してもらうことも可能だが、私一人しかいない今、"自己管理"という言葉が重くのしかかっている。
私たちの結婚式が近づいたある日のこと、セイレン・シャンドラ伯爵令嬢の成人パーティでサハリン王太子殿下は私に婚約破棄を突きつけた。
「キャンベル・ノイージア!貴様は多くの国民を謀った!みんなよく聞け!こいつが聖女というのは嘘だ!それだけではない、貴様は魔族の力を持って国民を…そして王族をも害したな!?真の聖女であるセイレンがそう証言した!どうりで貴様の歌を聞くと頭痛がする訳だ!!キャンベルとの婚約は破棄する!」
ざわつくホールではそこここで声が上がる。
「頭痛?」「本当に?」「今まで嘘をついていたの!?」「なら、私の父が死んだのもキャンベルのせいということ!?」
サハリン王太子殿下の、そのよく通る声はさらに告げた。
「良いか、他でもないセイレン・シャンドラ伯爵令嬢がまごう事なき真の祝福の聖女である!」
なるほど、シャンドラの成人パーティで婚約破棄を告げるなんて正気を疑ったけれど、そのシャンドラ本人が一枚噛んでいるのだ。
シャンドラは紫色の瞳で私を思い切り見下し、侮蔑の笑みを浮かべている。王太子殿下の後ろに隠れるようにして、彼女自身は何も言葉を発することをしない。
それで、私は反論の気力さえ失う
王太子殿下の腕にしっかり絡まる細い腕を見てしまい、思わず目を背けた。
「私はキャンベル・ノイージアとの婚約を破棄し、セイレン・シャンドラ伯爵令嬢との婚約を新たに結ぶ!多くの国民を害した罪は重い。よってキャンベルを魔塔へ幽閉する!」
「魔塔って…あの西にある?」「魔物が住むと聞くわ…」「今まで嘘をついてたのなら殺されないだけマシでは?」「聖女だなんて、みんなからチヤホヤされていい気になって」
あちこちから罵倒と、食べ物やコップが飛んでくる。ワインをかけられ、フォークを投げつけられる。
これが、私が今まで必死でしてきたことの結果なのである。
(私を幽閉して、満足かしら?)
私は長年の肩の荷が降りた気さえするというのに。
(やっと喉が休まる)
私はワインまみれで、そんなことを思った。
耳元でセイレンが私に言った。
「頂くわね、聖女の座も、王太子妃の座も。それだけじゃなく、この国ぜぇーんぶ」
振り返ると彼女はブロンズの髪を揺らして去って行った。
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