第23話 襲来2

周囲には,アリエスの拳で気を失った魔族が転がっていた.魔王軍側の兵力は既に3分の1が気を失っていた.


その状況にアリエスは違和感を感じていた.

(魔王軍の攻撃が少ない気がするんですけどね.あっちが攻撃側なのに,避けられる感じ,可笑しい.これは)

「……時間稼ぎ狙いですか?」

アリエスは,少し息を整えてその場を仕切っているアウトの方向を見た.アリエスの見立てでは,既に魔王軍側の大半の兵力を削っているはずであった.



「……」

(やはり,化け物か.戦いに置いては特に)アウトは,無言で思考を巡らしながら,アリエスから距離を取った.


「……こう言うのは得意じゃないんだけど.こう言うのも必要ですよね.」

アリエスは小さく独り言を呟くとわざとらしく溜息をついた.


「……」

(サウス様の警戒する意味が分かる.どう来る?勇者.)

アウトは,次の攻撃の準備を始めた.


アリエスは息を大きく吸うと大声を上げた.

「魔王軍も落ちたものですね.」

アリエスは,今までの人生で経験した記憶を思い起こして,最大限の煽りを始めた.


「……お前,何を」

魔王軍の一人の兵士が声を上げた.


「待て」

(サウス様から聞いていた,勇者の人となりと違う.もっと脳筋だから,こんな煽りなどはしないと……しかし,この程度の煽り我慢すれば良い.)

アウトはあくまで冷静であった.


「飛んだ腰抜け集団ですね.大人数で一人の人間を倒せないなんて.それにビビって攻撃を仕掛けて来ないなんて.」

アリエスは,更に煽りを続けた.


「……舐めるな.お前ごとに下等な人間に負けるはずがない.ずる賢く,最低な人間に完全なる生物である我々が負けるはずがない.」

魔王軍の一人がそう声を上げるとそれに呼応するように.


「そうだ,聖剣がないだたの人間.数が多いことしか取り柄がない人間に魔族が負けるはずがない.お前を殺して,お前の関係者を人間を皆殺しにしてやる.」

そんな声があがった.今回集まった魔王軍の士気は高かった.その高さは,魔族としてのプライドと強さから来ており,そして人間を見下していた.


「じゃあ,その強さを証明してくださいよ.まあ,貴方が全員で攻撃してきても負ける気がしませんけど.」

アリエスは,そう言ってわざとらしく欠伸をして見せた.


「行くぞ.お前らああ.」

そのアリエスの行動で魔王軍の兵士に火が付いた.アウト以外のほとんど魔王軍兵士は,アリエスに向かって攻撃をするために走り始めた.


「待て,お前ら作戦が」

そんなアウトの声が届くことは無かった.既に,魔王軍の兵士はアリエスの射程に入っていた.


「煽って申し訳なかったです.」

アリエスは,そう言いながら,魔力を全力で解放した.

空気は揺れて,アリエスに攻撃するために近づいた魔王軍の兵士や既に気を失っていた魔王軍の兵士は吹き飛んだ.魔王軍の兵士は,ほぼ全滅した.


静かになったその場所でアリエスはゆっくりと口を開いた.

「ずる賢く,最低な人間かも知れないが,それは,魔族にだって誰だって言えると思いますよ.それと無駄な殺生はさせませんから.」

それから,アリエスは,魔力を開放させたまま地面を強く蹴った.


空間が揺らぎ,その迫力にアウトは,冷や汗を流した.

(時間稼ぎなんて無理だろ.これ相手に)

「……」


「残りの皆さんもさっさと倒させて頂きます.」

アリエスがそう言って地面を蹴った.

残り数人の魔王軍兵士はアリエスの一撃で気を失い続けた.圧倒的な実力差があった.そして,魔王軍兵士で生き残っているのは,アウト一人になった.


「……出来れば,ここから撤退してほしんですけど.この人たちを連れて」


アウトはゆっくりと唾を飲み込み

「……断る.下等な人間に降伏する選択肢はない.」

(勇者でもやつは,ただの人間だ.サウス様の初めの作戦である.勇者は攻撃の射程が短いから,兵士を分断して時間を稼ぐ方法は,もう失敗だが.その策が失敗したなら今ここで俺が勇者を倒せば良い)

アウトは賢かった,一度目に,アリエスとエリと戦闘した事で実力差は理解していたが,他の魔王軍兵士が逃げなかった手前,逃げて時間稼ぎをするなどがプライドが許さなかった.


「そうですか.では.」

アリエスがそう言った次の瞬間,結界は解除されて,アウトは遥か彼方へ吹き飛んだ.


「……とりあえず,急いで,サウスを探さないとですよね.」

アリエスは,そう一人するべきことを呟いて確認すると今の拠点の方向に走り出した.



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