第24話  襲来3

基地前方のエリは,端的に言うと勝利していた.

「弱い.……魔王軍ってこんな弱かったけ?変ね.」

エリは首を傾げた.周辺には,斬られて気を失っている魔族が転がっていた.


魔法使いであるエリは,剣術で魔族を全員打ち負かした.エリは魔法で身体能力を強化していると言っても,剣術は聖女よりも剣術が上手いマウントを取るためだけに練習した程度であった.だから,今までの魔王軍に対して剣だけでは勝てないと考えていた.エリは,剣で戦うと見せかけて途中で魔法使い一網打尽にしようと考えていた.しかし,結果は剣術のみで圧倒した.


「……化け物.」

魔族で意識が残っているのは,インだけだったが,それもエリが話を聞くために倒していないだけで,実力差は明確だった.


「違うわ.君たち,魔族が弱くなった気がする.原因は何?魔王の死?少し興味があるわね.」

エリは,そう言って首とツインテールを振った.それから剣をインの首元に向けた.


(魔族が弱くなっているだと……確かに,それなら雑魚勇者しか残っていない,あちらの前線が膠着している意味が分かる.違和感はあった.でも,何故だ.)

インは,思わず思考を巡らせた.


「心当たりは無いみたいね.まあ,その辺は後で考えるわ.とりあえず,君にはもっと聞きたいことがあるの」

インの困惑する表情から,原因が不明であることを読み取ったエリは,直ぐに質問を変えた.目下の重要な疑問があったのだ.


「……答えるとでも」


「はぁ,いやまあとりあえず聞くわよ.あの,サウスを名乗ってるのは何?誰?」


エリは,答えてくれるとなど思っていなかった.しかし,恐らく魔法を使おうとしたら自害されて終わりであると分かっていたので,とりあえず尋ねた.

「……」

インは,首元に剣を突き立てられた状態でも表情を崩すことはなかった.


「可笑しいんだよね,アリエスが倒した時は,魂に干渉できる魔法なんて使えて無かったし.あれは何?」

エリは,とりあえず話を続けた.


生物は二つの要素で構成されていた.肉体と魂.

肉体に干渉する魔法は多く存在していた.魂を移す魔法も困難であったが条件次第では可能だった.死ぬ前であること,移動先の肉体と魂の相性が良いこと,移動先の肉体に魂が存在しないこと,優れた魔法使いの第三者が魔法を行うことなどである.


しかし,サウスの場合は異なる.

サウスは,魔法を使う前にアリエスに殺された.

サウスの今の肉体には,他の魂が存在していた.


今の魔法のレベルでは不可能なのである.

それが出来る生き物がいるならそれは,神か悪魔かそのような人知を超えた神話上の生き物であるのだ.


それに,そもそもサウスがその系統の魔法をアリエスとの戦いで使用していなかった.だからエリは別人を疑っていた.


「……四天王サウスにビビっているのか,魔女.」


「魔女……」

エリは,大きくため息をついた.彼女はずっと少しイライラしていた.


「……」


エリは,ツインテールを振り,インを睨みつけると

「私はさ,ただアリエスと仲良く二人で過ごしたいと思っただけなのにさ余計な人がたくさん来るから.もう戦いは終わったのに,みんな戦うから……」

そう言ってから深呼吸をして,

「はぁ,で,あれは,本当にサウスなの答えて.」

そう冷静になり尋ねた.


「……」


「ああ,じゃあ,君たちを捨て駒にして時間を稼ぐような人物だったのサウスは?」

(四天王サウスは,敵だったけど.,ここまで露骨に捨て駒に味方をする敵では無かったと思う.少なくともアリエスと戦う時も,一騎打ちで戦ったし.)

エリは,そう言って睨みつけた.


数秒間の沈黙が再び来るかと思ったが,インが口を開いた.

「……違う,サウス様が少し変わったのは確かだ.でも,お前らが殺せるなら喜んで捨て駒になろうではないか.」


そう言って笑うインを見てエリは首元から剣を放して,それから魔法で弾き飛ばして,インの意識を奪った.すると歪んだ空間が元に戻り,結界の外に出た.


そして,エリはため息をついた.

「じゃあ,サウスは,何者なのかしら.それにしても,ヤバいわね.拠点の周りに結界が張られてるわ.ガーネットが危ないわね.」

エリはツインテールを触ると杖を出して,魔法で少し宙に浮いて,全速力で拠点に向かった.

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