第18話 悪意と策謀2
王都の何処かの地下室,初老の男と,20代半ばの男性が密談をしていた.
「あの二人の死亡は確認したか.」
初老の男は,横柄な態度で呟いた.その初老の二人は,アリエスとエリを指しており,その言動や命令は感情からやって来ていた.
その言葉に20代半ばの男性は,深呼吸をしてから答えた.
「……その……負けました.」
「はぁ?精鋭部隊だぞ.念には念を持って精鋭部隊を送り込んだんだぞ.何があった.可笑しい.可笑しいよな.」
初老の男は,テーブルを蹴り大声で叫び散らかした.
「魔王軍の前線基地だった場所で……アリエスとエリ,それと謎の魔族の存在を確認して,全戦力を持って攻撃を行ったが,アリエスに敗北して,敗走したと連絡が.」
20代半ばの男性は,そう言うと深く頭を下げた.
「……負けたか.聖剣もないアリエスに.聖剣が無ければ,ただの強者だろ.絶対的な強さではないだろ.」
初老の男の見立ては甘かった.ずっと王都にいた彼には,アリエスの強さを伝聞でしか知らなかった.その強さが聖剣ではなく,彼の特異的な強さに支えられていることを理解できていなかったのだ.聖剣が無くても魔王軍の幹部クラスの強さの人物ではないとアリエスとまともに戦うことが出来なかった.
「想定よりも化け物な様です.恐らく,その後は,こちらを追撃する素振りが無いので,今は触らない事が賢明だと思われます.」
(何故,貴族の私の思い通りにいかない……いや.仕方ない.奴らにこだわり,国の掌握が遅れる訳にはいかない.)
「……辺境沿いの街には,あいつらを入れないように徹底させろ.」
「承知しました.それと,もう一つ,伝えたいことが」
「何だ.」
「魔王軍残党が,止まりません.」
「何を言っている.そいつらの対処には偽勇者を向かわせただろ.偽勇者はともかく下につけた兵士の強さは,それなりにあるだろ.」
アリエスとエリが国を追放されていなくなった情報はすぐに魔族サイドに伝わった.それまで揉めていた魔王の長女と次女は,三女の抹殺と人の国の攻撃する事で一致して,攻撃を開始した.
それに対して,国は,今,国の多くの権力を掌握した貴族中心主義の貴族派は,すぐに手を打ったが,二つの誤算があった.一つは,特異的な強さを持っていた勇者パーティーが魔王軍を押していたが,基本的に人間より魔族の方が強いのだ.勇者パーティーの異常な強さで勝利していた事実を忘れて,戦力が十分であると勘違いしたことである.もう一つは,
「その戦力不足の問題もありますし.モチベーションも……偽勇者が,……片方の勇者に関しては,ナンパをして,振られた相手に実力行使をしようとした挙句に返り討ちに会いまして.もう片方は真面目なのですが,弱すぎて……」
20代半ばの男性,そう言って冷や汗をかいていた.
初老の男は,数秒黙り込んでから,
「……お前の偽物勇者を選ぶ人選の目が悪いのだろ.あああ,どうにかしろ.もっと強い戦力を送って,それを勇者の手柄にしろ.」
大声をあげた.
「……ですが,この国には,そんな戦力もありません.このままだと聖剣を本物と疑うものが出てきます.聖女が,勇者の存在を疑い,大教会から出ていきました.流石にまだ全員が疑っていませんが,時間の問題です.偽物とバレると流石に我々の立場も」
20代半ばの男性は,初老の男の大声でビビりながらも,意見具申を行った.
「……それも,そうか.そもそも何故?魔王軍の戦力があんなに残っている.」
「分かりません.」
「あの,勇者のせいだ.……勇者パーティーの戦士を連れてこい.アイツは,貴族だったよな.」
「ええ,確か,地方貴族で,今は自分の地元に戻ったと.」
「権力と金を与える口実で連れてこい.それで,偽勇者二人の代わりに戦わせろ.」
「従いますかね.」
「従わせろ.これでは,平民派を追い出し粛清した意味が無くなる.」
「承知しました.」
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