3節 勇者

第19話 目的

アリエスは,一人部屋で座り込んでいた.

絶望と罪悪感との重たい空気がこの部屋を支配していた.

「僕は何が出来るのだろうか」

アリエスは折れた聖剣を見て小さく呟いた.


アリエスは,戦闘においては勘が鋭く,力量や強さについての把握はあまり間違える事が無かった.聖剣が無い今,先ほど現れたサウス(仮)に勝てないことを理解していた.

折れた聖剣をゆっくりと見ていた.何時間そうしていたか,分からないが,アリエスは急に立ち上がると


「……とりあえず,今出来ることをしよう.」

アリエスはそう言うと,聖剣をしまい,木刀を手に取り素振りを始めた.うだうだ考えるのが自分の性にあっていないと思ったアリエスは,剣を振りいつも通りに過ごすことにした.


アリエスが素振りを初めて何分経ったか分からないが,

「アリエス……,アリエス.」

そんな叫び声がアリエスの耳に響いた.


素振りをやめたアリエスは,息を少し切らしていた.

「エリ.」


「私は,反省したの.そして決めたの.国を作るわよ.それでスローライフを出来る場所を作りましょう.」

エリの言葉はいつもと同じように強気であったが,目は真っ赤に腫れており,ツインテールはぐちゃぐちゃになっていた.自分たちが助けようとしてたガーネットを苦しめる原因を自分たちが作ったことを目の当たりにして,エリは悲しみのそこにいた.口ではいろいろ言っても,アリエスの影響を大いに受けていた,エリは心のそこからガーネットを助けようとしていた.


「何を言ってるんですか?今このタイミングで」


「今,このタイミングだからよ.私たちが平和な国を作るのよ.もう,それしかないのよ.」

エリの言葉にアリエスは覚悟を感じた.アリエスとエリが勇者パーティーが魔王軍を倒した事で,ガーネットの親友のイオナは死んだ.その状況を作り出したのは,魔王軍と人族の国々であり,この世界に救いなどないように見えた.だから,エリは,前に少し考えた冗談を本気で実行することを決めた.


「……国,それが罪滅ぼしになりますかね.」


「罪滅ぼしするのよ.それに,私は助けることを諦めたわけじゃないわ.相手が魔法で肉体を奪い取ったなら,こっちも魔法で助けるまでよ.それに仕組みは理解したは.聞く?」

エリは,そう言うと胸を張り,アリエスを指さした.


「分からないと思うので,大丈夫です.任せました.……そうですね.僕は,どうにかしてサウスを抑え込まないってことですかね,捕えないと魔法も何も無いですから.」


「……やっぱり,アリエスでも勝てないのかしら?」


「無理ですね.聖剣が無いと火力が足りないです.まあ,それは僕が何とか頑張ります.今までもどうにかして来ましたし.」

アリエスはそう言うと静かに笑った.


「……楽観的.前も言ったでしょ.そう言うところ,ああ,もう良いわよ.アリエスのそういうところ好きよ.」

エリは,ぐしゃぐしゃになっている今の顔をアリエスに見られて吹っ切れたのか.そう言って指を刺した.


「えっ?なんか矛盾してません?」


「……もう良いわ.アリエス.安心したわ.勝てるわよ.」

エリは,ため息をついた.


「根拠ないのは,エリも,まあいいか.……ガーネットさんどうしてますか?」


「部屋に引きこもったわよ.出てきてないわね.仕方ないわよ.」


「じゃあ,あの宮廷魔法使いは?」


「縛っておいたままよ.」


「……はぁ,もう,国の情報どころじゃなくなりましたからね.解放するにも,死にそうですし.」


「……まあ,とりあえず目下は,サウスをどうするかよ.いつ,攻めて来るかしら?」


「分かれば苦労しませんけど.とりあえず,結界は用意しておきましょう.」


「それは,用意するは,ちょうど拾った聖剣を結界の中心に出来るわね.」

エリは,そう言うと屋敷にあった聖剣を何処かから取り出して地面に突き刺した.それから,杖を出し,魔法の詠唱の準備を始めた.


「任せました.僕は,ガーネットに謝罪してきます.初めにサウスを殺したのは僕なので.」


「私も……いや,今回は辞めておくわ.アリエス,全て成功させて,ここに国を建国するわよ.」


「そうですね,それでスローライフでも始めつつ,魔族にも人間にも宣戦布告でもしましょうか?」


「……建国そのものが宣戦布告でしょ.やっぱり,アリエスにはスローライフは似合わないわ.」

エリの言葉を聞きつつ,アリエスは,ガーネットに謝罪する為に歩き始めた.

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