第4話 責任?八つ当たり?

元魔王軍 四天王サウスがいた 魔王軍前線基地.


少し埃が積もっているが,二人でしばらく過ごすには十分な広さと快適性があった.


周辺に敵対する生物がいない事を確認した二人は,部屋にとりあえず座り込んだ.

「エリさん,説明してください.」

                 

「そうね,その前に,確認よ.アリエスって何もしてないのよね.濡れ衣よね.」

エリは,ツインテールの髪の毛を触りながら小さく首を傾げた.


「何もしてないですよ.少なくとも国家反逆罪をするような行動はしてなかったと思います.」


エリは,数秒アリエスを見て,しばらく考え込んでから

「……魔王を倒してから,何をしてたか確認しましょう.」


「待って,何で僕の尋問が,」


「う~る~さ~い~.とりあえず,言いなさい.」


「……魔王を討伐してからは,街で困っている人を少し助けたり,冒険者ギルドでお手伝いとかしてましたね.それぐらい.」

アリエスは何もしてなかった.王都に戻ってから追放されるまでの数日間は,癖で街で,人助けをしていた.


「……うーん,それが政治的な行動に見えたのかな?まあ,アリエスが追い出されたのは,政治的に邪魔になったからだね.これは,間違えないわ.」


「……何で?」


「まあ,その……私が天才だから分かるのよ.君が国を転覆させるつもりがなくても,周りの人間がどう思ってるかは分からないでしょ.馬鹿なのかな?本当に.」


エリは,普段の調子で,アリエスの事を少しおちょくるように,胸を張りドヤ顔で煽って来た.少し前のアリエスなら,反論をしていたかも知れないが.


「……」

今のアリエスはぐうの音も出なかった.実際,自身の無力さと無能さをアリエスは実感していた.


「言い返しなさいよ.これだと私が一方的に悪者みたいじゃない.」


「……それはないので大丈夫ですけど.それで,どうして,エリさんはここに.」


エリは,数秒,何とも言えない,形容し難い微妙な表情になり,深呼吸をしてから,立ち上がると,アリエスの前に立ち

「……私は,本当に国家反逆罪になったのよ.」

そう,苦笑いをしながら宣言した.


アリエスは,

「ああ,なるほど,国家反逆罪.本当の……」

一度それを受け止めて,停止した.


「そう,国家反逆罪よ.」


「えっ?」

アリエスは,声を上げた.

(何がどうなったら,エリさんが,だってエリさんは,要領が良いし.そんな,状況になるわけない.えっ?)


「とりあえず,話すわよ.君が国家反逆罪で追放された2日後に,私,王宮に呼び出されたのよ.」


「ああ,そうなんですね.」


「……そこには,王様と宰相のザルドさんと新しい勇者が二人いたの.君を含めたら3人ね.」


「いや,僕は聖剣が無いので.それで二人ですか?」

アリエスは,首を傾げた.


「ええ,聖剣は,あの国には5本あったでしょ.その2本の適正者が二人出たらしいの.」


この世界に,聖剣は,10本あった.1本が破損,4本が行方不明,そして5本が2人を追放した国に存在していた.聖剣は,それぞれ異なる性質を持っていた.


アリエスが持っていた聖剣ヘリオスは,強力な光の魔力を纏う剣.全ての聖剣の中で最もシンプルな性質の剣であった.


「凄いですね.じゃあ,魔王軍の残党は大丈夫そうですね.」


「……本当にお人好し.そこで,私は,勇者パーティーにもう一度入るか.国王の側室になるかの選択肢を出されたの.」


「……よっ良かったじゃないですか.玉の輿ですよ.」

アリエスは少し遠くを見て呟いた.


「良くないわよ.国王陛下何歳だと思ってるのよ.それに……」


「それに?」


「良いわよ.話を続けるわよ.アリエス」


「はい,どうぞ.お願いします.」


「後は,勇者パーティーに入るかでしょ,子供の子守は嫌だったのよ.」


「……それで,断って,国家反逆罪ですか?流石におかしくないですか?」

(エリさんはそう言うトラブルは回避出来そうだし.この程度で国家反逆罪?)


「何がよ.」


「だって,エリさんは,国家反逆罪になるぐらいなら,勇者パーティーに入ってやり過ごしますよね.」


「……うるさい.(なんでここは無駄に鋭いのよ)」


「何か言いましたか?エリさん.」


「何も無いわよ.とりあえず,私たちはここでスローライフでもすれば良いの.分かる?」

エリは,そう言うと杖を地面に叩きつけた.


「……そうですね,のんびりしましょう.」


「そうよ,それで良いのよ.もう,こうなったら責任を取って貰うしかないのよ.」


「だから,それはどう言う」


「良いから,スローライフするわよ.アリエス」


「そう言えば,エリさんは,家事とか掃除とか料理とか出来ますか?」


エリは数秒黙り笑顔になってから

「出来ないわよ.」

そう言ってドヤ顔を決めた.


「……奇遇ですね.」

アリエスとエリは顔を見合わせて,無言でハイタッチをした.それから,数分無言で下を向いていた.


2人のスローライフは前途多難であった.

アリエスは,これからの生活の事を考え,エリは,国家反逆罪になった日の事を思い出していた.

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