第5話 悪意と策謀

アリエスとエリの2人が,スローライフに軽く絶望していた頃,王都の何処かの地下室,初老の男と,20代半ばの男性が密談をしていた.

「魔法使いが出て行ったせいで,予定が狂った.あの王の機嫌も少し損ねた.」


「予定外でしたね,ザルド様.」


「……あの厄介な元勇者と魔法使いは仲が悪かったのではないのか.」


「そのはずだったんですけど……」

エリとアリエスが言い争っている姿は良く目撃されていた.それに,エリがアリエスに良く文句を言っている姿は多くの人が目撃しており,二人が仲が悪いという認識は多くの人々の中で共有されていた.


「それが,何だ,『何が雑魚勇者よ.アリエスを馬鹿にしないでください.お人好しで国を救った勇者を見捨てる国なんて願い下げです.アリエスを誰も助けないなら私が助けます.』だよ.仲良いじゃないか.」


「想定外でした.平民の考える事は分からないですね.」


「愚かな女だ.平民は貴族の我々が居なければ何も出来ない愚鈍だろうに.我々に従えば良いものを」

ザルドはそう言うと,地団駄を踏んだ.


「……しかし,全体的には,成功ですよ.ザルド様,平民派閥の勢いを削ぐこと,教会陣営の取り込みには成功しました.最後の失敗も敵を追い出せたと考えれば.」

20代後半の青年は,そう言ってザルドをなだめた.


この国には3つの派閥があった.魔王が倒された今,国外に向いていたリソースの多くが国内に向き,派閥争い過激になっていた.


最大派閥であり,貴族中心主義の貴族派.

神の権威を中心にする教会派

市民,平民の権利を重視する平民派


その3つが権力争いをしていた.


一連の出来事は,アリエスはその権力争いに巻き込まれたものであった.


アリエスは,本人がどう思っているかは別にして,彼は平民派から人気であった.平民派からしてみれば旗頭としては最適だった.一部の平民派は,アリエスを利用して,権力を得て,政治改革をしようとしているものがいた.一部の物は,アリエスの凄さを説き,称賛していた.


逆に教会派からの人気は全くなかった.むしろ嫌われていた.

神から賜った聖剣を折った人物が好かれる理由などなく,どうにかしてアリエスを排斥しようとしていた.


そして,貴族派のリーダーのザルドは,貴族選民思想の持ち主であった.だから,アリエスが平民の癖に,称賛されている状況や,兵器として国が育てたのに,感情を持ち,勇者的に振る舞うなどの行動に腹を立てていた.だから,アリエスを巻き込み,敵対している平民派を陥れて,教会派を取り込むために手を打つことにした.


ザルドは,平民派の一部を金で買収して,その人物に『アリエスが平民派と結託して国家反逆を企てている」と王に密告をさせて,嘘の事実を作った.


その状況に,嘘に教会派の人物達は,大いに賛同した.


初めは,アリエスを処刑に持ち込もうとしたが,勇者をそこまで持ち込むことは出来なかったが,結果として嫌いなアリエスを追い出して,平民派の排斥,教会派の取り込みと,概ね計画通りにいった.


強欲なザルドは,それで終わらなかった.更に,自身の権力を確かなものにするために,勇者を二人用意した.


しかし,聖剣の適正者は,簡単に見つかるものではない.

だから,不正をした.

魔王軍も残党しかいない今,勇者に強さは必要ないと考えたザルドは,偽物の聖剣を2本用意して,適当な人物を騙して偽物の勇者に仕立て上げた.


さらに,自分たちの周辺を調べている魔法使いのエリを取り込むための行動に移した.

彼らは,自分たちの周辺を調べて,アリエスが追放した理由を探っていたのは,エリがザルド達を脅して出世するためだと思っていた.だから,その為に手を打った.


彼らは,こう考えた,地位と名誉のどちらかを与えれば良いだろうと.


国王陛下の側室という平民からしてみれば喉から手が出るであろうと考えられる地位か,再び勇者パーティーに入る名誉を用意した.


偽物勇者二人の傲慢と無知な態度を見て,後者は無理だと,ザルド達は思っていたが前者が本命だった.彼女を取り込み,国王陛下の機嫌を取ることも出来る妙案だと思っていた.


しかし,それは失敗した.

エリは,『私も国家反逆罪にすれば良いじゃ無いですか.』そう言い残して去って行った.


「陛下の機嫌は別のもので取らねばな,まあ,問題ない.」


「そうですね,ザルド様」


「まあこの話は終わりにするぞ.奴らは,国家反逆の罪があるのだ.事実がどうであれ,この国ではまともに過ごせまい,この国から出ても生きては行けないだろう.やつら終わりだ.はは,これで我々の障害は減ったというものだ.愚かな平民どもが,平民に生まれたことが罪なのだ.」

ザルドは,極度の貴族権威主義者であり,平民を嫌っていた.平民は,愚かな物と生れたころから言われていた結果出来上がった人物であった.


「そうですね.この国は我々選ばれし貴族のおかげで成り立っているのですから.ザルド様.」


「奴らは,今頃,飢え死ぬか,誰かに殺されているだろう.」


その頃2人は,どちらが料理をするかで本気で揉めていた.

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