第3話 再会

アリエスが追放されたから10日が経過した.

アリエスはまだ国の中にいた.アリエスは辺境の山の中を歩いていた.

髪は少し伸びて,人に合わないせいか,ボサボサなまま適当な状態にしていた.


10日前と今の違いは,2つあった.


1つ目は,アリエスが正式に指名手配された点である.アリエスの首には懸賞金がかかっていた.それを狙って盗賊や,柄の悪い冒険者がやって来ていた.何度目の襲撃か,アリエスは数えるのが面倒になり,ため息をつきながらあしらっていた.


「ふざけるな.もう,弱いはずでは.」

襲ってきた盗賊達を簡単に全員倒したアリエスは,周りには痛みで地面に這いつくばっている盗賊を眺めていた.腐っても元勇者.聖剣がなくても,武器が無くても,盗賊などに負けるはずが無かった.


(なんで,わざわざ国外に追い出す措置をして,僕の首に懸賞金をかけるんだ?もう,どうでも言いや.この国に期待するだけ無駄だ.)

2つ目の違いは,アリエスは完全に諦めた.今は,どうしてあの時,王様に対して引き下がったのかすら思っていた.少しあった未練なども,完全になくなっていた.


「……はぁ.ここら辺は危ないので帰ったほうが良いですよ.多分,しばらくしたら立てると思うので.」

10日間歩いたおかげで国境にはかなり近づいており,多くの危険な魔物がうろつく地域であった.アリエスは,丁寧に自分の命を取りに来た盗賊たちに頭を下げた.


「黙れ,黙れ.」

盗賊のリーダーらしき人物がそんな風に睨みつけて立ち上がった.


「……いや,まあ,怪我をしないうちに帰った方が」

(その情熱を別の事に使えば良いのに.)


「……お前の首を持って行って,一攫千金を狙うんだよ.」


「…いや,仮に僕の首を持って街に入れば,あなた達も多分捕まりますよ.だって,あなた達は盗賊ですよ.」

アリエスは,小さく首を傾げた.アリエスは無実の罪で濡れ衣でお尋ね者になっていたが,目の前でアリエスを睨みつけたり,地面に這いつくばっている人たちは元からお尋ねものだった.


「……」


「盗賊をするぐらいだったら,普通に冒険者とかした方が儲かると思いますよ.」


「黙れ.冒険者は金にならないんだよ.」


「……はぁ.」

(先を急ぐか.)

アリエスは,再び東方に向かって歩き始めた.


その時だった.盗賊の一人が叫んだ.

「ギャアアア,魔物が出たぞ.」

その声と共にアリエスが振り返ると3メートル程度のサイズの狼が倒れている盗賊を襲っていた.


「あれは,ウルフガレオ.」


「……」

アリエスは,立ち止まって,その様子を見て小さくため息をした.

(勇者なら,どうするだろうか.そんなのは決まっている.)


「嫌だ,死にたくない.」

そう叫ぶ盗賊の声を聞いてアリエスは,進む方向を東方から,オオカミに変更した.


「……はぁ.」

アリエスのそれはもうほとんど癖のようなものであった.染みついた習慣のようなものだった.


ある勇者パーティーの聖女は言った.『人助けは素晴らしいです.異端と異教徒と魔族以外は皆救われるべきです.』

ある勇者パーティーの戦士は言った.『人助け?俺の役立つ人は助ける.それだけだ.』

ある勇者パーティーの魔法使いは言った.『人助け?しないわよ.じゃあ,私が魔王軍と戦う理由?それは,玉の輿に乗るためよ.貴族になるには,格が必要でしょ.」


ある勇者は『勇者だから』そう答えるだろう.


アリエスは,一匹の魔物を殴り飛ばして,盗賊を守った.

勇者の一撃は,その魔物を後方に吹き飛ばして,オオカミはふらついていた.

殴られた魔物は,アリエルにビビりながら,森の中に帰っていった.


「隙あり,死ねえ.」

魔物方向を向いたアリエスの背後を盗賊は取り,剣を振り下ろそうとしていた.


「……」

(本当に,何なのだろうか.世界は価値がない場所なのだろうか.まあ,とりあえず捕まえて,ここら辺に放り投げておくか.その後,この盗賊がどうなるかは,もうどうでも言いや.)


アリエスの反撃の前に別の声が聞こえた.

「燃えろ,紅蓮」


それは,アリエスが良く聞いた声であり,アリエスの動きは止まった.

その声と共に炎の塊がアリエスを攻撃しようとしていた盗賊に直撃してその人物が吹き飛んだ.その攻撃は一撃で終わらず,辺りにいる盗賊全てを平等に焼いた.


それから,優雅に歩く足音が聞こえてきた.

金髪のツインテールのスレンダーな美女,大きな杖を持ち,ローブに身を包んでいる魔法使いらしい服装の人物.

その人物は,ボサボサで服装にあまり気を使ってないアリエスを見て小さくため息をつき,それから少し笑顔になって

「本当に,お人よしよね.敵を助けるとかおかしいんじゃない?本当にそういう所,大っ嫌いよ.」

そう声を上げた.


「……エリさん,どうして?」

元勇者パーティー魔法使いエリ,何故か彼女が現れた.


「そんなこと聞かなくても分かるでしょ.」


(追手か,元勇者を殺すには,その仲間か.はぁ.)

「分かりました,まあ,エリさんになら.」

そう言うとアリエスは両膝をついて首を差し出す素振りをした.


「……違う.はぁ,本当に,本当にアホなのかな?」

エリは,目を見開き声を荒げた.


「では,何ですか?」


「私も国外追放になったの.君のせいで,責任取りなさい.」


(えっ?うん?エリさんが?何で?僕の濡れ衣に巻き込まれたのか?)

「何でですか?……やっぱり,僕のクビを」


「あああ,本当に,はぁあ.嫌い.とりあえず,魔法で飛ぶわよ.歩いてたら埒が明かないでしょ.」

エリはスタスタとアリエスの近くに歩いてきた.


「うん?嫌いなら,一緒にいない方が」


「ああ,もう,うるさい.行くよ,アリエス」

エリは,アリエスの横まで来ると腕を掴んだ.


「えっ,何処にですか?」


「魔王城近くに転送魔方陣を書いておいたのよ.魔王との戦闘時に使うと思ったのに国から逃げるときに使うとは……ってどうでも良いわ行くわよ.」


「いや,待って」


「転送魔法は一度限りだから,ここには戻れないから?荷物は持った?」

混乱しているアリエスの事を無視してエリは,話を進めた.


「持ってる物は,今身に着けてるのものですから大丈夫です,そうじゃなくて,エリさん.」


「じゃあ,良いわね,3,2,1」

エリが杖を地面に叩きつけるとアリエスとエリが光輝き,その場から消えた.


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