第13話 フェアリーテイル

 そうこうしてる間に原稿作業は進み、脱稿して宅配便に出した。



「やったー! 終わった!!」

『こ、これでようやくトーンカスまみれになる地獄から開放されるのです』



 そう言ってコロポックルは机の上に倒れ伏した。



「あはは、ごめんて」

「鈴先生、脱稿おめでとうございます! サイダー飲みます?」



 すっと自室の扉から現れたひなたの持つトレイの上には、氷を入れたサイダーが!



「やったー! ありがとうひなた!」



 そしていつの間にか庭を見てみればメダカも池に泳いでた。

 キラキラのラメっ子や体外光の強い子がやはり目立つ。


「広い場所でメダカも気持ち良さそうねー」

『ですぅ〜』



「先生は本日、原稿でお疲れだと思ってお昼は私が冷やし中華を作っておきましたよ」

「ひなたが神! またまたありがとう!!」

「えへへ」

「単行本出たら金一封あげるからね!」

「あざす!」



 縁側に吹く風が風鈴を撫でて奏でる清涼な調べを聞きながら、ひなたの作った冷やし中華を食べた。



「美味しい! ゴマダレのやつだね」

『マイルドで美味しいですぅ』


 そう言ってリーフは口元を舌でペロリと舐めた。

 そんな仕草も可愛らしい。


 でも味は気に入ってるみたいだけど、やはり小さな妖精に麺類はつらいのかな?


 とりまティッシュで口元を拭いてあげよう。

 と、ふきふきしていたら……



「鈴先生。たまにママ味がある」

「はいはい」

『お手数おかけしますぅ』



 そう言いつつ、妖精はにぱーと笑う。



「そう言えば、リーフちゃんは今まで他の人間と関わった事があるの?」

「一回だけ」

「どんな人かな?」



 おお、創作意欲が刺激されそう!



『初摘みの果実だよって苺をくれたニンゲンですぅ』

「ほほう、それは素敵でかわいい!」


『大正時代あたりですぅ』

「歴史を感じる」

「だよとかいう口調からして男の人かな?」


『はい、薬師の家系の男の子ですぅ』


「色々妄想が膨らむね」

『後は時代と世界を変えて想像して書けばいいですよ、私は私の知らない物語を読んでみたいから』

「まあ、大正時代はよく分からないからね」

「鈴先生もですか! 私も大正あたりはよく分からないです」


「でも先にひなたが小説で書けばいいよ」

「え? どうしてですか?」

「小説のが多分早いし、それが当たればコミカライズを私に依頼すればいいんじゃない?」


「おおお、念願の! 先生のコミカライズ! 恐れ多くて言い出せなかったのに……!」


『二人の合作、素敵ですぅ、いつか読めるのを楽しみにしてますね!』

「「ありがと」」


「ほのぼの妖精ファンタジーいいですね」

「とっておきのフェアリーテイルを頼む」 


 私はひなたに向かって右手の親指をぐっと立てた。


「フェアリーテイル……つまりおとぎ話系ですね」

「別におとぎ話でなくてもいいけど、妖精出てるだけでもうおとぎ話のようなものよね?」

「そうかもしれませんね、でも私のがヒットしなかったら?」

「その時は同人誌でもいいし、私が原作付きですってツイッターで無料で漫画を見せてバズるのを期待するかね。人気があれば書籍化ワンチャン」

「なるほど!」



 そう言うと、ひなたはすっくと立ちあがり、とりあえずメダカの様子を見てくると庭に出た。



『ひなたはまた蚊に襲われそうですぅ』

「この蚊取り線香、メダカには害がないみたいだし、持って言ってあげたら?」

『しょーがないですねぇ』



 かくして妖精は蚊取り線香を頭にのせ、よいせ、よいせと庭にお届け。


 その姿のかわいいこと。

 ほのぼのしちゃうね。


 そして夜、夕食は流石に私が作った。鶏肉とたまねぎとアスパラのバター蒸しを作った。

 夏を感じるレシピだとテレビで見たので。


 ほんとは鶏むね肉を使うらしいけどモモ肉のが美味いのでは? と、思ったのでモモ肉で。

 他には白ワインとレモンとレモン汁も使った。


 なかなか好評だった。



 


 

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