第12話 匠の技

 夕方にはひなたはメダカの取り引きに行った。

 地元のメダカ愛好家さんの家の近くまで。


 そう言えば車に乗せて貰った時に、どこかでメダカのノボリ、旗のようなものを見たことがあるなぁなどと考えつつ、私は掃除などの家事をしてから、夕食にぶっかけうどんを作った。


 夏だし、涼やかでいいと思う。

 ひなたの分は冷蔵庫に冷やしておく。



「リーフ大丈夫? 食べられそう? うどん短く切ろうか?」

『だ、大丈夫です! 噛み切れますので!』

「軽いシリアルもあるよ?」



 牛乳と混ぜるだけのやつ。



『いいえ、この大根おろしがきいてて、夏に大変いいです!』



 縁側からは風鈴の音が涼やかな音色を運んでくる。

 食後はテレビから動画を表示させながら原稿作業をする。

 地道な作業。


 * *


 ややしてひなたの「ただいまー」って声が聞こえたので、私とリーフは玄関まで出向いて、


「メダカどう? 綺麗な子お迎えできた?」

「いい感じですよ! ほら、このビニールと容器にいます」


 ざっと見ても30匹はいた。


「おお、綺麗。金色もいる!」

「金色は普通とてもいいお値段なんですが、おまけしてもらいました、ほら、こっちは卵も」

「卵まで! あらすごく青い水ね」


 卵は小さなタレビンに青い水に入れてあった。


「カビ防止のメチレンブルーが入ってるので青いです」

「なるほど、カビ防止の液体なのね」

「卵だけは小さな容器で育てます。親と一緒にしたら食べられてしまうので」


「あらあら、卵まで口に入れてしまうのね」

「そうなんですよ」

「ひなたの分のぶっかけうどんが冷蔵庫に入ってるからね」

「あざす! この子達の水合わせの準備してからいただきますね!」



 洗い物を終えてから庭を見たら暗い庭先で作業してるひなたがいた。



 またも水合わせからやるひなたはメダカを入れたボウルの中に白くて丸いタブレットのようなものを入れた。

 あんな感じの見た目のお菓子あったな、ヨーグルト味とレモン味のやつ。



「ひなた、なにそれ」

「酸素を出すタブレットです、水合わせの間に酸欠にならないように、念の為」

「ふーん、確かに泡が丸くて白いタブレットについてるね、でもぶくぶくいうエアレーションのが確実じゃない?」

「メダカは水流苦手なので、そっちは疲れるかなって」

「そっかぁ」



「鈴先生とリーフちゃんは明日の朝には予定ありますか?」

「夜に原稿やるから朝食作るくらいかな」


「原稿なら朝はゆっくり寝てた方がいいですね。

私は知り合いの畑にとうもろこしの収穫手伝いに行きますので、お土産にもろこしもらっていればきますよ」


『とうもろこし! 収穫の喜び!』


 リーフが一瞬、瞳を輝かせたが、


「でもリーフにとうもろこしはちょっと重いと思うから大人しく待ってたら?」

『うう、そうですね、念力を使ったとして、とうもろこしが浮いてたら不自然ですしね』



 それから私とリーフは自室で原稿作業に戻る。

 私がボカシ削りというテクニックでトーンをカケアミのように削る作業をしていると、リーフが


『デジタルなら削りブラシでササッと撫でるよう動かすだけなのに。

 ほぼ一瞬なのにわざわざ匠の技的な事を……』

「文化の継承!」


 などと言ってデジタル推進派の変な妖精に抵抗をしていた。


そしてひなたも少しの間、トーン貼りの手伝いをしてくれてから、「収穫あるのでお先に失礼しますね」 

「はーい、お疲れ様」


 私と妖精の原稿漬けの夜は更けていく。



 翌朝、早くからひなたはとうもろこしの収穫に行って、帰ってきてから、お土産に採れ立て新鮮な甘いとうもろこしをくれたので、簡単に茹でていただくことにした。



「流石に新鮮で甘いねー。すごく美味しい!」

『とうもろこしウマウマですぅ!』

「よかったですー」 


「とうもろこしの残りはピザのトッピングにしようか?」


 大型スーパーでピザの上に何かトッピングしてオーブンで焼くだけの簡単なやつを買ってきているので。


「名案ですね!」

『粒コーン乗せ!』


 そして後で、皆とプチトマトと、とうもろこしとウィンナーをスライスしたやつとバジルを添え、トッピングして美味しいピザを食べた。


 間違いなく美味い!
















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