第7話 神社と夏祭り
うなぎを食べたからには仕事をせねば。
という気にもなる。
何しろ精をつけるらしいから。
そんな訳で夜はなんとか下描きを終わらせた。
明日からはペン入れだ。
でもその前に地元の神社のお祭りだ。
作画資料のための取材だし、これも仕事だし!
物語をアウトプットするためにはインプットも大切なのだ。
翌朝。
「今朝の朝食メニューはいただきものの唐揚げと、キュウリの浅漬けに……」
「あ! 私の好きなスイカの漬物もある!」
「スイカの白い部分の漬物。醤油をかけていただくやつ、ひなた好きだよね」
『スイカのやつ、私も好きですよ〜』
そしてセリ入りのお吸い物も追加で簡単に朝食を済ませた。
* * *
昼過ぎになって、お祭りに行く為に着替えをした。
私はせっかくなので浴衣を着た。
『おお、浴衣とは、日本の夏って感じですね』
「鈴先生! 浴衣だ! 素敵! いいですね! 乙女ゲームの夏祭りイベントみたいで!」
「そんで君はジーンズとキャミソールなのかい」
妖精とラノベ作家に褒めてもらえた。
「引き立て役に徹します」
「そんなのは頼んでないのに、ねぇ、趣味で買った浴衣がもう一着あるからひなたも着ない?」
「メダカ掬いで濡らすといけないし、今日は動きやすさ重視です!」
「そんなにメダカ掬いが楽しみなら仕方ないわねぇ」
「先生、ほんとに庭にメダカ入れてもいいんですよね!?」
「昔は鯉がいたけどもういないし、いいわよ」
うちの庭には今は封印中の池があるのだけど、
普段はブルーシートを被せて水たまりができないようにしてる。ボウフラが発生するから。
でもメダカを入れたらボウフラは餌になる。
「お庭ビオトープ系憧れてたんです!」
「でもサギとかの鳥にお魚系は食われる可能性はあるわよ」
「て、テグスで鳥対策はします」
「さて、そろそろ出かけようか」
「はい! あ、鈴先生は下駄や草履でいっぱい歩くの大変でしょうし、私のチャリの後ろにどうぞ!」
「ありがとう」
そうしてリーフを肩の上に乗せた状態でひなたの漕ぐチャリの後ろに横座りで乗って神社に向かった。
しかしこれ、彼氏彼女でチャリ二人乗りだったら凄い青春の1ページっぽくて絵面最強だったかもしれない。
エモい。
漫画で描こうかな……?
でもチャリの作画が面倒だからやっぱりやめた。
駄目だ、思考がヘタレすぎる。
どうしても作画効率を考えてしまう。
私が後ろでそんな事を考えてるとも知らず、ひなたはせっせとチャリを漕いで神社に連れてきてくれた。
綺麗な風鈴が沢山並んでいて、涼やかな音の合唱が聴こえるし、田舎とはいえお祭りなので人はそれなりに多い。
出店も結構ある。
「先生、あの風鈴の前で写真撮りましょ! せっかく浴衣着てますし!」
「ひなたは?」
「どっちでもいいです!」
結局お互いを撮りあった。
風鈴ずらりは映えるもんね。
自分たちの映らない写真ももちろん撮った。
資料、資料!
そしてしばらく撮影大会をしていたけど、そろそろ出店を見ようって流れになった。
「あ、ヨーヨー釣りかわい……」
「あっ! メダカ掬いの登りあった!」
「あ、メダカ掬い、あれかぁ」
ひなたが嬉しそうに小走りで人混みの中、メダカに引き寄せられてくから、ヨーヨー釣りに後ろ髪がやや惹かれながらも私も後からついて行った。
メダカ掬いのメダカはいろんな種類の改良メダカが入っていた。
高そうなのもいる。
一回五百円か、結構するな。
でも掬えなくても三匹プレゼントか。
「ねぇ、メダカって金魚より動きが早いのでは?」
「そうかもですが、すごくキレイな子がいますよ!」
「あの白いのキレイね、ヒレが優雅で長い」
「あの白いのですね! それとあのブルーっぽいの狙います!」
「あの青っぽいのね」
ひなたは金魚掬いと同じポイと言う薄い紙の貼ってあるお決まりの道具を買って、お目当てのメダカを狙おうとした。
でも、逃げるし、欲しいのを狙うの難しくない?
と、思ったんだけど、
肩の上のリーフが小さな声で、
『来い来い』とメダカを呼んだら、なんとコロポックルの加護が発動!?
「やった! 白くて綺麗なのゲットしましたよ!」
「天女系ですよ、おめでとうございます」
店主の方によると天女系らしい。
でもひなたの本命は青いのよね。
リーフがもう一度、『来い来い』と、呟くと今度は青いのが寄ってきた!
今がチャンス!
「よっ! ……取れっ……た!」
「おめでとう! 凄いじゃない!」
でも、ポイはもう破れた。
あとはまたポイを買い直して、三匹、近くにいたのを掬っておしまい。
「あー、楽しかった! あ、先生さっき何かいいかけました?」
「私はヨーヨーがかわいいから、ヨーヨー釣りをやろうかなって、あれは逃げないだろうし」
いろんな色のカラフルなヨーヨーが子ども用プールみたいなのに浮かんでる。
一回200円。
ヨーヨー釣りはこより紙をW型の釣り針の中央の山部分に入れる。
針は紙の真ん中にくるように。
紙を折り、親指と人差し指をこするようにして、紙をねじっていき、この時、細かくねじると強いこよりになり、ねじりが荒いと弱いこよりになる。
「鈴先生、何色狙いですか?」
「そうねぇ、オレンジがいいけど、ゴムが綺麗に水面に浮いてないやつじゃないと駄目だと思う」
「かなりガチだわ」
オレンジは引っ掛けるゴムが水中なので諦めて、白に模様があるやつを狙うことした。
なるべくこよりを水に漬けないように慣性の法則に従い、釣る瞬間フック部分を横にしてすっと引っ張る!
「おっ! すごい! 一発で!」
「いけた!」
でも二回目チャレンジ中こよりは千切れた。
残念、でも一個は取れたからいいや!
「では私もやってますね」
今度はひなたが挑戦するみたい。
でも三回やって全部失敗した!
かわいそう!
「はい、三回やってだめでも一個は貰えますよ、どれがいいですか?」
店主さんありがとう! 救済システムがあった!
「そのオレンジで!」
「ハイどうぞ」
「はい、鈴先生どうぞ!」
「え、ひなたがせっかく」
「オレンジがいいんでしょ?」
ひなたはにっこりと笑った。
ま、眩しい!
「イケメンかよー! じゃあ、私の白と交換しよ」
「はーい」
「ひなたがオレンジのくれたから、たこ焼きか何か奢ってあげるわ」
「マジすか! やった!」
「りんご飴とか焼き鳥でもいいよ」
「えー、悩みます、でも写真で映えるのはりんごかな」
「じゃありんご飴で、たこ焼きは己で買います」
「己でって言い方がウケるわ、でも私も焼き鳥と、ラムネを己で買おう」
その後はりんご飴を持たされて撮影したり、焼き鳥とたこ焼きと、ラムネをお土産にして帰った。
その場で食べなかったのは、人前でリーフが食べられないし、何もないはずの空中で食べ物が消えたらホラーすぎるからね。
ともかく、本日は楽しいお祭りで満足!
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