第6話 うなぎナイト

 さて、私達は自宅に戻った。

 私は台所へ向かい、いただいたサイダーを冷蔵庫で冷やし、昆布を入れたご飯のスイッチをオンにしておいた。



 今回の川は綺麗だから、泥抜きタイムは省略し、氷でしめた後は庭の作業台で早速ひなたがうなぎを捌く段取りだから、タオルと蚊取り線香の用意をした。



「ご存知の通り、うなぎの血には毒があるので決して作業中に目をこすったりしてはいけないのです」



 ひなたは経験者なので左手だけ手袋をして、注意事項も語ってる。



「ひなた、汗が垂れたら私がタオル持って待機してるから、汗! って医者みたいに言えばふくからね!」



 私はナース的なアシスタントをかってでた。



「ありがとうございます! 助かります!」



 蚊取り線香で蚊を避けつつ、まな板に目打ちから何からやってもらった。

 道具は祖父母のが残ってるからありがたい。


 ちなみにリーフは私の肩の上で固唾をのんで静かに見守っている。



「太いですねー、美味しそう」

「ひなた、捌くの上手」

「あざす!」


 そして、やはり暑いので額から汗が、



「あ、ひな……」

「汗!」

「はい!」



 私は手にしたタオルでさっとひなたの汗をぬぐった。


 そしてひなたが汗をかきつつ二匹分のうなぎをさばき終えた頃に。



『お疲れ様です、ひなたさん!』

「ご苦労だった! 焼きの方は私がやっておくから貴様はシャワーに行ってヨシ!」


 さっきまで甲斐甲斐しい助手のナース役だった私が、うって変わってまるでどこぞの軍曹のように言うと、


「はっ、ありがたき幸せ!」



 騎士のように返してくれた。

 我々はオタクなのでよくこういうノリで会話することがある。



 ひなたがシャワーを浴びてる間にまな板を綺麗に洗い、ベランダのバーベキューセットに炭火をセット。

 そしていよいよ網の上でうなぎを焼く。



 うなぎのタレは市販のものが冷蔵庫にあったから味に間違いはないだろう。



 うなぎのタレをハケにつけて塗りつつ、ひっくり返したりの作業をする。

 すると……美味しそうないい匂いが!!



『最高にテンションの上がる香りがしてきましたね』

「ふふふ、めっちゃいい匂いよね」


 妖精にも分かるらしい、この香ばしい香りが。



「匂いにつられて戻ってまいりました、先生、代わりましょうか?」

「ありがとう、じゃあ私もシャワー浴びてくるね」



 私がシャワーを浴びて戻るともう居間には、いい具合に焼けたうなぎが炊きたてご飯の上にのっているし、インスタントの松茸のお吸い物には川でゲットしたセリも入っていたし、クレソンはサラダになっていた。


「うなぎ壱号! 完成していたの!?」

「そんな某初号機が完成してたみたいに。

でもうなぎ弐号機も完成してますし、ご飯もふっくら粒が立ってていい具合でしたよ!」



 いつものバカっぽいノリで笑いあう。



 うなぎは私とひなたの分からひと切れずつリーフ用の小さなお茶碗にものせてある。

 リーフは体が小さいからね。


 私は冷蔵庫からサイダーを取り出し、氷を入れて3人で乾杯することにした。



「鈴先生、何か一言お願いします」

「えー、では、コロポックルの恵みとうなぎに乾杯!」


「「『かんぱーい!』」」


 そもそもコロポックルって狩猟や漁業が得意で人間に食べ物をくれたり幸せをもたらしてくれたりすることがあるらしい、ネットの情報によれば。


「あ、唐揚げはどうします?」

「今夜ははうなぎがあるから明日の朝ご飯にしましょう」

「はーい」


 さて、いよいよ本命のうなぎの実食!


「「『いただきます!!』」」


「うま~〜っ!」


 ひなたも至福の表情である。


「安心の国産天然うなぎ! 美味しいね!」

『よきかな~ですぅ』

「お吸い物もセリがいい感じですね」

「だね〜」

「そう言えばうちの親の実家では父が梅雨時にうなぎを獲るカゴの罠を川にしかけて食べてましたね」

「へー、梅雨時なんだ」


 たわいもない雑談をしつつ、美味しいうなぎを食べて、それからデザートには冷蔵庫で冷やしていたスイカを出した。



「あー、スイカ! 夏って感じしますね!」 

「これも数日前、玄関に置いてあったの。ごんぎつねみたいに」

『普通に絶対ご近所さんからですぅ』


「だよね~。でもコロポックルも夜中にこっそりと食べ物おいてってくれることがあるらしいじゃない?」

「へー、コロポックルってそんな妖精なんですね」

「マジでそうなの? 私の知識合ってる?」


 私とひなたはせっせとうなぎを食べていたリーフに視線を移した。


『よほど気にいった人間がいれば、あるいは……ですぅ』 



 妖精、あるいは神様らしいリーフは笑顔でそう語った。


 氷で冷えたサイダーを飲みほして、楽しい夜はふけていった。

























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る