第4話 夏の宵

「さて、リーフはこれをペットボトルをどう使うのかな?」


 私はペットボトルと釣り糸と釣り針を用意し、テーブルの上に置きつつ尋ねた。



『紐でくくって浮きのように使って、紐の先は釣り針、もう一方はそのへんの枝にくくりつけておきます、どこかに流されないように』


「へー、釣り竿の代わりの重しや飲み口の先っぽを切って内側に突っ込むタイプの罠じゃないのね」


 ひなたがそう言うと、


『それは小魚や小さなエビなどならかかかるでしょうが、ひなたさんのお望みがうなぎですので』


 と、いう回答だった。



「あはは、ごめんねリーフちゃん、私が贅沢なせいで」

「いいえ、クーラーのある部屋で寝泊まりさせて頂くのでこれくらいは」


 家主は私なんだけど、まあいいか、ひなたも楽しそうだし。


 夕方になって、ひなたとリーフはスコップとペットボトルの先を切って容器にしたものを持ち、ミミズ探しに庭に出ようとした。



「ひなた! 虫除けスプレーはしたほうがいいよ、蚊に刺されるから」


 私は慌てて虫除けスプレーをひなたに渡した。


「あ、そうか! ありがとう先生」

「リーフちゃんも虫除けする?」

『いいえ、私は妖精なので虫には刺されません』

「えー、いいなぁ」



 さて、ひなた達がミミズ探しをしてる間に漫画の原稿を進めておこう。


 私は自室に籠もって残り三分の一くらいになっている下描き作業をした。

 BGMはお気に入りのアニソンだ。

 ペン入れ段階になるとタブレットでアニメや映画などを流しっぱなしにしたりする。

 なので映画はふき替え版がとても助かる。


 私は下描きを二ページ描いたところで作業に飽きたので夕食の準備をすることにし、階段を降りて一階のキッチンに来た。


 昼が素麺で麺類だったし、甘いシュークリームも食べた。

 次は少し辛いものが食べたいな。


 よし、ご飯物で高菜チャーハンにする。


 妖精は高菜チャーハンいけるのかな? とか思いつつ、高菜チャーハンを作った。

 トレイに完成した料理を乗せて居間にあるテーブルに並べた。

 つけ合わせはシンプルにネギ乗せ冷や奴。



「夕食できたよー!」


 ミミズ探しをしているひなたとリーフに縁側から声をかけた。


「『はーい!』」


 一応リーフの分も小さい器に高菜チャーハンを盛ってある。

 人間サイズのお箸は素麺で使いにくそうにしてたので、今回は小さなスプーンを用意した。

 お店でプリンとか買うとつけてくれるプラスチックの軽いやつ。


「先生の作る高菜チャーハンうまうま!」

「これは初めての味ですが、美味しいです」


 やや辛いものも妖精の口にあったようだ。


「よかった」



 私達は夏を感じる蚊取り線香の香りの中で、ゆったりと夏の夜に食事をした。


 食事中の会話は地元の神社でもうすぐお祭りがあるとかで、ひなたもメダカ掬いなどがあるからやってみたいとかいう話だった。


 夏のお祭りの時の神社は風鈴がいっぱい飾ってあってとても綺麗だ。

 両親と祖父母と一緒に、幼い頃に行った事がある。



「風鈴がズラーッと飾ってある風景は漫画の参考資料にもなるし、私も写真を撮りにいこうと思ってるよ」

「先生、それ素敵だと思うけど、描くと作画で死なないですか?」

「しゃ、写真トレスならなんとかいける」 

  

 スマホで写真撮る! 



『パソコンないのにどうやってプリントするので?』

「タブレットとスマホくらいは流石にあるので写真データ入れた端末を持ってコンビニのあるとこまで行ってからプリントする……」



 リーフは素直にパソコンとプリンターを買えばいいのにって顔で私を見た。

 言いたいことは分かるけども!



「あ! そういえばここって豚さんの蚊取り線香を置いてるけど、リーフちゃんは大丈夫?」

「あっ! そういえば私の部屋にはスプレータイプの虫除け使ってるけど、妖精的には大丈夫そう!?」



『私は蚊取り線香も殺虫剤も大丈夫です』


「「よかったぁ」」


 思わず胸を撫で下ろす。

 妖精といえばトンボやちょうちょの羽根のタイプもいるので、ひなたの発言で一瞬はっとしたけど、コロボックルは平気みたいでよかった。


『あ、ミミズ用のペットボトルの蓋にラップを少しください。空気穴を作ります』

「いいけど罠はいつ仕掛けるの?」

『なんなら今夜でもいいですよ、まだ下描きの最中なら、私の消しゴムかけ作業はペン入れ後のはず』

「よし! なら私も行く!」


 ひなたがはりきってるけど、もう夜だよ。


「もう暗くなって危ないから早朝に行ったらどう?」

「田舎だし、遭遇するならきっとカエルくらいですよ」

「わかんないわよ、ヤンキーくらいは出るかもしれないし、夏の夜は危ない、朝にしなさい、どうしてもと言うなら武装していって」


「ぶ、武装?」

「刃物とか?」

「先生、それは職質されたら終わるやつですよ!」


 あなたも小説家の先生でしょとは思うけど、デビューが先の私がずっと先生と呼ばれてる。


「万が一、職質されたら小説家ですが漫画家アシもたまにするのでカッターナイフをポケットに、たまたま入れたままでしたって言えば」

「えー」


「それが嫌なら傘とか」

「チャリで行くので傘は長くて邪魔かなと」


「じゃあ……いざという時は鍵を握り込んでメリケンサックのようにガッとやるのよ!」

「あはは、先生、わりとリアルな悪漢撃退法が出てきますね」

「もー! 私は本気で心配してるのよ!」


「はい、では朝にしますけど短めのカッターを護身用にポケットに忍ばせておきますよ、刃渡り何センチかまでなら多分セーフでしょう」


『なにかあれば私がひなたさんを守りますよ』

「コロポックルって戦闘可能なの!?」


 私の問いにリーフがおばけのジェスチャーをした。

 いわゆる両手を前にしてうらめしやのポーズをしつつ。



『悪者には見えないので、幽霊のふりとかで物音を立ててビビらせたり、小石を投げたりします』


 あー、そういうやつねと、私とひなたは納得した。


「なるほど、誰もいない筈の場所から物音が! みたいなやつね! いざというときはよろしくリーフちゃん!」

「でも念の為、朝に行くのよ」

「『はーい』」



 人間と妖精で仲良くハモってた。





















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