第3話 おかしな妖精
コロポックルとの出会いといえば、まるでおとぎ話のようなのに、この妖精ときたらやたらと現代の知識に精通していた。
「ネギの他には庭にあったミョウガもそうめんの薬味にできるよ」
さあ、召し上がれとばかりに居間のテーブルに料理を並べた。
そうめんをザルに上げて氷も入れてあるし、
きゅうりの浅漬けと刺し身蒟蒻も付け合せに用意してある。
『ミョウガがシャキシャキですねー』
この妖精はミョウガもいけるらしい。
「ただのそうめんでも柚子胡椒あるだけで違いますね」
なとどあまり売れてないラノベ作家がのたまうが、ただのと言うなかれ。
「ただのそうめんと言えど、そうめんにもグレードがあり、これは木箱に入っていたいただきものの、い◯乃糸!」
「いいやつ! あざす!」
「刺し身蒟蒻はこの酢味噌で食べるといいよ」
「あざす!」
『ヘルシーで痩せそう』
ははは。調整だよ。
「夜にアイス食べるから多少は」
『あっ! そうでした、アイスを食べました!』
そうめんを麺つゆとネギとミョウガと柚子胡椒でいたはだいて、きゅうりの浅漬けとか刺し身蒟蒻も食べた。
デザートはひなたの用意してくれたシュークリームをありがたくいただく。
まずケーキ屋さんのシュークリームは大きめで見た目が素晴らしい。
外側がパリッと香ばしく、中身がなめらかな生クリームとカスタード。
「カスタードと生クリームのコラボがいいね」
「マジでラヴィアンローズのシュークリーム美味しい」
『優勝しました』
「シュークリームで優勝おめでとう、リーフちゃん」
ひなたはリーフちゃんと自然に呼んだ。
「あはは、妖精の口にもあって良かったね〜」
私達は今時の言葉を使いこなす妖精に思わず笑った。
「ねー、普段は妖精さんはどこに住んてるの?」
『フキの葉の下や川の中やハスの葉のある池などに。先祖はとても寒い地域から来たと……えーと、蝦夷地、いえ、北海道?』
「あー、夏の北海道いいなー、蟹食べたい」
などとひなたがのたまうと、
『そのへんの川の蟹でもよければ私が獲ってきますよ』
リーフは蟹が穫れるらしい。
「え、そのへんの川の蟹!? 食べるとこ少なくない? 川の生き物ならうなぎのほうが嬉しいかな」
『うなぎですか。わかりました、罠を仕掛けます』
「おおー、凄い! わがままなのに許された! 餌は何?」
『そのへんでミミズでも探します』
「夕方でよければミミズ探し手伝うよー」
『ありがとうございます』
「へぇ~、つまりアレ? 細くした竹か蔓みたいなので編んで罠を作るの?」
サバイバル番組でわりと見るやつかなと、私が訊くと、
『鈴さん、空のペットボトルと糸と針を用意してください』
コロポックルはなんとキリッとした顔でそんな事を要求してきたではないですか。
「夏休みの自由研究か! 妖精感はどこに!?」
『手っ取り早いので』
「キャハハ! 先生、この妖精おもろいですわ!」
「現代知識に汚染されてない? この子、大丈夫なの?」
ちょっと心配になってきたレベル。
『妖精の物語を書く人はまだいるので、大丈夫ではないですか?』
「妖精って信じる人がいなくなると消えちゃうって本当に?」
『ですから妖精は絶滅しかけてはいますね』
妖精は少し遠い目をした。
「でも……私達も別に妖精がいると思って妖精の出る物語を書いてる訳でもないよね?」
『いればいいなと思ってはいるのでは?』
「そうね、幸せをもたらすかわいい妖精なら、いると嬉しいとは思ってるかな」
ここでこの妖精、今世紀最大のドヤ顔をした。
『どうやらそのくらいでもギリギリ生存できるようです』
「こ、これが生き証人! いや、妖精だけど!」
「今度の作品も妖精を描いておこうかな」
私がそう言うと、ひなたがリーフに向き直り、
「そうだ、リーフちゃんにも教えておこう。私は鈴先生の描いた妖精の出る漫画のファンなんですよ」
自己紹介のようなものを始めた。
『おや、そうだったんですか!』
「それでファンレターも何度も送るから名前を覚えてもらえて、サイン会も行ったし、オフ会もできたし、先生が田舎に行くと言うので下宿もさせてもらえた!」
そう、彼女は私についてきたのだ。
まあ、この家はそもそも私のおばあちゃんの家だだったとはいえ、女一人で田舎暮らしはやや不安もあったから、同居人がいたほうがいいなとは思った訳だ。
『なんで若い娘さんがわざわざ田舎に来てるのかと思ったら、推し作家と同居したかったんですね!』
「あはは、まあね。小説なんてどこでも書けるしインターネットさえあれば」
今どきは便利だね。
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