第2話 妖精とひなた

 そう言えば……と、私は気になっていた事を口にした。


「妖精さん、あなた名前は?」

『呼び交わす仲間がいなかったので特に固体名のようなものはありません』

「固体名って……ディストピア出身みたいに……えーと、じゃあ私がつけてもいいの?」


 便宜上呼び名があったほうがいい。

 誰かに妖精さん。なとど呼びかけているとこを他人に見られたら私が頭のおかしい人になってしまう。



『はい』

「緑の葉っぱを持っていたからリーフでいい?」

『はい、わりとそのまんまな気がしますけど響きがかわいいので良しとします』


「やはり、権左衛門にしようか、サムライっぽく」

『リーフ最高ですぅ! サムライの時代に生きてただけでサムライではないので!』



「ハイハイ」

『いたいけな妖精には優しく!』

「いたいけ……とは? 私より長生きだよねぇ」

『私は小さいので!』

「確かに小さくはあるね」

『そうでしょう!』


 手のひらサイズでポケットに入る。



 さて、妖精を招いたとはいえ、お昼ご飯がアイスで終わりと言うわけにはいかないな。


「ところで普段は何を食べて生きてるの?」

『どんぐりや木の実、花の蜜などを』


 妖精はきゅるりんとした愛らしい表情を作って言った。


「急に妖精感を出してきたね」

『そもそも妖精ですけど!』


「素麺とかでもいい?」

『もっと歓迎の為にピザとか無いので?』


 おい、妖精!


「近くにピザ屋もデリバリーも無い田舎よ!」

『よし、今度石窯を作りましょう!』


「この妖精、さらっと凄い手間のかかる事を言い出す」

『かわいい女の子がせっせと庭にピザ窯作ってそれを動画配信すれば収益で元がとれますよ、多分』

「この妖精、無駄に現代版の知識が有りすぎる」


『テヘペロ』

「素麺にします」

『はい……』

「柚子胡椒は入れてあげるから」

『はい!』


 私が台所に移動し、素麺の用意ができたところで、


「ただいまー」


 ガラガラと引き戸を開ける音と声が響いた。

 しまった! 下宿人が帰ってきた!

 私は慌てて居間に置きっぱだった麦わら帽子をリーフにかぶせて隠した。


 妖精は純粋な人間にしか見えないということを忘れて。



「お、お帰り、ひなた」

「ただいま、鈴先生! お昼はお素麺?」

「うん、そう、今用意したとこ」


 私は慌ててキッチンに戻り、ひなたの分の食器を用意してたんだけど、



 その隙に、


「えっ」


 居間にいるひなたから驚きの声が上がった。

 手には私の麦わら帽子。


「あっ」

「小人!?」


 明らかに日向にも妖精が見えてる!


『こ、このニンゲンにも私が見えてしまった!』

「ねえ、マジであなた誰にでも見える説ない!?」

『そ、そんなはずは、このニンゲンからもピュアな波動をそこはかとなく感じます!』


「そこはかとなく?」

「先生、これなんですか!?」

「妖精のコロポックルらしいの」

『先生が召喚したんですか!?』

「するわけないでしょ! 勝手に暑さにやられて道で行き倒れてたの!」

 

『妖精って暑さにやられるんだ……!』

「猛暑なのよ」

『猛暑なのにわざわざ外に出たんですか、先生』


「夜中に食べる原稿の合間のご褒美アイスが切れてて……どうしてもあれが必要だったの。近くの駄菓子屋は夜は開いてないし」


「私に言えばケンタローおじさんの車に乗せてもらって移動してたので、スーパーに寄ってもらえたのに」

「ひなたが車に乗ってたとか知らなかったし」


『あの、私の事は内密に。サーカスには売らないでください』


 妖精はひなたに向かって手を合わせた。

 目をうるうるさせながら。


「今時サーカスはそうそうないわよ、リーフ」 


 めったに来ない、あの集団。多分。


「未確認生物系はどちらかといえばアメリカの宇宙人とかを秘密裏に研究する施設かな」



『おやめになって! 怖い話は!』

「ごめんごめん、妖精さんのことは秘密にするわ。というかこの子はリーフというお名前ですか?」



 ひなたはもう落ち着いたようで畳の上に座布団を引き寄せて座りなから私に問いかける。


 流石に日頃、異世界ファンタジー小説を書いているだけはあるわ!!



「私がつけたの、名前がまだなかったから」

「そうなんですね、じゃあシュークリーム買ってきたんで、皆で素麺食べた後にいただきましょう! 食後のデザートに!」


『シュークリーム、私もいいのです?』

「もちろん、かわいい妖精さんを歓迎しますよ」

『やはりこのひなたという人からはピュアな波動を感じます! 良きニンゲン!』



 ゲンキンな妖精である。










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