(十四)
この街と私は相性が悪い。正確には、今の私と特に相性が悪い。新調した靴なんかでロソに来るんじゃなかった。私はひいこら言いながら坂道を上り終えた。修繕屋に行く前に一休み。この街に生まれた人達は足腰が強くなりそうだ。五階建ての建物を見上げる。私は気合を入れ直し、修繕屋のある五階を目指した。
思いついた順に作ったかのような街だ。建物も道も、理路整然とは程遠い。後から後から施設や店を継ぎ足して、巨大な山のような形になり果てている建物がいくつもある。発展はしているが、便利ではないだろう。その上、坂道が多いから、本当に山登りしているかのような気分になる。舗装されていてもいなくてもしんどい。
迷いに迷って、ようやく修繕屋へと辿り着いた。もうへとへとだ。
表に紙が貼ってある。
「臨時休業」
声に出して読むと、私は天を仰いだ。
ここまで来ておいて閉店だったことも堪えたが、帰り道を考えるとよりげんなりした。とれた宿が別の建物の一階なのである。そこしか空いていなかったのだ。いや、もっと探せばあったのかもしれないが、可能性のみにかけてこれ以上歩き回るのは嫌だった。その結果、始点と終点がはっきりと決まっている長距離を歩くことになったわけだが。
私は唸りながら踵を返した。また明日来よう。
気をつけてはいたものの、帰り道でも迷った。せめて平坦な道ならよかったのに。階段だの坂道だの、くそ、忌々しい。
自分の部屋に辿り着くや否や、私はベッドの上に倒れ込んだ。そして気がついたら朝を迎えていた。
またもや迷ってしまった。昨日と同じルートかそうでないかすら分からない。一回や二回では覚えられそうもない。地図が何の役に立つというんだ。
昨日の修繕屋は、詩集のことを何も知らなかった。よくあることだ。だが、ここでは情報があってほしかった。私は嘆きを表に出さぬよう、努めて明るく振る舞った。普段の自分より愛想がよかったことだろう。
「シュートに行けばありそうですよね」
唇の端が引きつる。彼は悪くないと自分に言い聞かせる。本当に悪くないのだ。寧ろ、親身になってくれる気持ちのいい青年だった。礼を言い、店を後にした。
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