(十三)

 屋根のある所に毎晩泊まれたらいいのだけれど、街に着かない限りそうもいかないので、道中は野宿をする。もう随分慣れたものだ。それでも眠れない晩というのは存在する。特に理由がない場合もあるが、主として、過去の暗い記憶が頭の中を駆け巡るためだ。そんな晩は寝るのを潔く諦め、テントから出る。翌日の予定なんぞあってないようなものだからこそできることだ。

 私はぼんやりと星空を眺めた。嫌な記憶の厄介なところは、自分が起因のミスか、相手に何かされた行為かで、落ち込み方が違うことだ。どちらにせよ過去の出来事なので、どうしようもないのだが、それでもつい考え込んでしまう。

 こうも眠れない晩が頻発するとなると、ヤウチュに住むのもいいかもしれない。あそこは、昼夜の役割が他の街と完全に逆転している。いや、駄目だ。嫌な記憶が夜に甦るのだから、起きている間、それをずっと味わうことになるだろう。しかもそれが毎日だ。昼にすら眠れなくなるかもしれない。あの数日間は、本に夢中になっていた”滞在”だから上手くいったのだ。働いて暮らしを営むとなると、そうもいかないだろう。さて、どうしたものか。

 そうだ、何か合図を決めよう。思考を切り替えるためのスイッチを作るといいと、以前本で読んだことがある。なるべく、身体の動きを伴ったものがいい。何がいいだろう。鼻をつまんだり、ゆっくりとまばたきをしてみたり、いろいろと試しているうちに眠たくなったので、私はテントに戻った。

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