(十二)

 やけに歩きにくいと思ったら、靴に穴が開いている。中敷きを貫通して靴本体にまで。馬を借りるか馬車に乗るかすれば、靴の減り具合も少しはましになるかもしれない。だが、馬は借りた場所に返さないといけないし、馬車に乗るような金銭の余裕はない。だから私は一貫して歩き続けていた。これからもそうするつもりだ。もうすぐ次の街でよかった。

 どうせならもっと壊れる寸前まで履こうと思い、靴屋よりも先に修繕屋へ行った。ちょうど作業中で、ちょっと待ってくれと言われた。見ていてもいいかと訊ねると、店員は黙って頷いた。

 バラバラの紙束が一冊の本に戻っていく。荒い口調とは裏腹に、丁寧な手つきだ。それでいて素早い。あっという間に作業が完了する。店員が背表紙を一撫ですると、本はゆっくりと頁を開いた。動きを確かめるように羽ばたき始める。そして店内を二、三回旋回し、生き生きと修繕屋を出て行った。いつ見てもいいものだ。壊れた本が生を取り戻すというのは。もちろん、壊れないのが一番いいのだけれど。

 修繕屋に詩集のことを訊いたが、何も知らなかった。会話が一区切りつくと、店員は私の足元にちらりと目をやった。

「早いとこ靴屋に行った方がいいぜ。俺ぁ靴は直せねぇ」

 下を向くと、靴の爪先から私の足が覗いていた。靴底が剥がれたようである。これで買う踏ん切りがついたなと思いながら適当に返事をしていると、

「兄ちゃん、詩集以外はどうでもいいんだな」

と言われた。皮肉ではなく感嘆の響きを持っていたので、寧ろ気恥ずかしくなって、すぐに店を出た。

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