(十一)

 私はそろそろと足を前に出した。滑らないよう細心の注意を払いながら。雪だ雪だとはしゃげていたのはほんの数分で、すぐに苦労を思い知ることになった。こんなもんで序の口だというのだから、私はここでは暮らせないだろう。

 靴裏の汚れと混ざって汚い色になった雪を眺める。この常冬の街トウジは、『純白の街』というキャッチフレーズを掲げているが、程遠い。牛歩の歩みで修繕屋へと向かう。

「知らん」

 修繕屋は仏頂面でそう告げた。そして会話を終わらせた。知らないものはしょうがないが、そんな無碍にしなくたって。私は、失礼な態度をとられても、やり返しはしないと決めている。礼を言って背を向けると、呼び止められた。

「手ぶらで帰すわけにもいかないからね。可哀想だし、これでも見てけよ」

 罪滅ぼしのつもりだろうか。では素直に謝ってほしい。許すかどうかは私が決めるけれど。

 そう思いながらも、修繕屋の手元に目をやる。修繕屋は、私にその本を手渡してきた。

 最初の数頁を見た時、酷い乱丁本かと思った。話の前後が繋がっていないのだ。まだ修繕前かと読み進めていくと、どうやら違うと分かった。区切り毎に選択肢が用意されており、その選んだ選択肢によって、次に読む頁が指定されているのだ。こんな本に出会ったのは初めてである。

 私がこの本の仕掛けに気づいたと知ると、店員はにやりと笑った。

 この本は確かに面白そうだが、これでごまかされたことにはならない。私は愛想笑いをした。

 トウジでも成果はなかった。

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