(十)
予定通り夜にヤウチュに辿り着いた。時間を調整した甲斐がある。修繕屋も開いている。だが街中真っ暗だ。ランプを持っているだけでよそ者だと知れるだろう。ごくごく小さな灯火だが、それでも人々は眩しそうにこちらを見やる。肩身の狭い思いをしながら、修繕屋へ入った。
修繕屋の中もやはり真っ暗だった。作業の邪魔になってはいけないと思い、私は火を消した。道は流石に見ないと分からないから、出る時にまた点けよう。暗闇に目が慣れるまで、私は店員の朗らかな声のみを頼りに会話をした。漸く薄ぼんやりと店内が見えてくると、小柄な男が作業の手を緩めることなく会話を続けていたことが分かった。先程から聞こえていた物音はこれだったのか。
私は肩を落として店を出た。ランプに火を灯す。目立ちたくないのでなるべく早く宿を探したいが、暗くて急げない。私は暗記してきた地図を必死に思い起こしながら、取り敢えず近場の安宿へと向かった。そこで部屋が空いていたのは本当によかった。
詩集に直接関係する事柄は何もなかったためにすぐ街を出る予定だったが、街に来ている本がどれもこれも面白くて、ついつい日数を延長してしまった。何と、ゾネの古語の点字本まで来ていたのである。訳すのには四苦八苦したが、有意義な時間だった。夜に起きているだけでは時間が足らず、日中になっても読み耽った。我慢できない時だけ数十分ほどの仮眠を取っていた。たった数日だがそんな生活を続けていたため、読み終えた瞬間、私は宿のベッドに倒れ伏した。そして一日中眠り続けた。
ずっと宿に籠っていたため、街の暗さに慣れることはなかった。私はランプを手に街を後にした。
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