(七)

 キャロヒの水は旨い。その噂に偽りはなかった。流石名産だけのことはある。私は喉を鳴らして水を飲み干し、コップを景気よくテーブルへ置いた。今後の旅路に向けての飲料水も貰い、勘定を済ませる。水分補給が済んだらメインの用事だ。私はその足で修繕屋を巡った。

 詩集の情報は得られなかったが、悪くない滞在だった。水は言わずもがな、食べ物もやたらと旨かったのだ。行く先々で食事を勧められた。つい食い意地を張って、全てに応えていたため、キャロヒに来る前より私は肥えたことだろう。小さな子供達がよく私にじゃれつき、ふざけて甘噛みをしてくるくらいには、ふっくらしてきた自覚がある。

 とある修繕屋で、今晩酒場にて宴会を行うから一緒にどうだと誘われた。私は二つ返事で了承した。それほどまでの魅力がキャロヒの食事にはあった。

 宴会では、あれも食べなさい、これも食べなさいとしきりに勧められた。腹はくちいはずなのに、いくらでも入った。酒を飲んでいたこともあり、私は普段ならば滅多にしない行動に出た。冗談を言ったのだ。

「どれもこれも旨いですね」

「そうかい、たくさんおあがり」

「こんなに食べさせてどうするつもりです? まさか、丸々僕を太らせて、後で食べようって算段じゃありませんよね」

 場が静まり返ったのは、私の冗談が壊滅的に面白くなかったからだと思いたい。だって、私を本当に食べるつもりなら、もっと上手くやるだろう。こんな場面で黙っては駄目だ。

 ぎこちなく宴会は続いたが、直にお開きとなった。私は、あくまで冗談ですよというスタンスを崩さぬよう、朗らかに宴会場を後にした。そしてキャロヒから走り去った。キャロヒに来る前より若干身体は重かったが、誰も追いかけて来なかったのでほっとした。

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