第2話 魔法学校、そして物語は始まる

 自分は、サリーとともに繁華街を闊歩していた。

 逞しい騎士の方たちが白馬に乗って往来している。ギャングやその他魔法犯罪者からこの街を守るために。

 この世界の舞台設定は、中世ヨーロッパだ。一応、メタ的要素だが、設定を作るうえで魔女が、魔女狩りに勝った設定にしている。そしてその魔女たちが創設したのがこの魔法世界。だから先ほどの騎士たちも、何十年も前は、魔女として迫害を受けていたのだが、今では地位を確立している。

 そして一般人と魔女は立場が逆転し、今度は魔女が迫害する方へと移った。

 すると肩を叩かれた。


「よお、アーヤ。久しぶり」


 そう声をかけてきたのは、中肉中背の少年。たしか、アーヤの相関図で作った幼馴染的ポジション、名前はジョン・ウィリアムズ。サリーの双子の弟だ。

 ジョンは日焼けしたことによる健康的な褐色肌で、使用できる魔法は焔を操れるといったものだ。

 実は、ジョンはアーヤのことが好きで、だがその胸の内を明かせずにいるという設定。


「一緒に学校に行かないか?」


 ジョンのその言葉に、サリーは目を細めた。それから俺に向かって、「アーヤ、私先に行ってるね。テスト勉強がしたくって」と言った。

 そのあからさまな配慮に、ジョンは苦笑しながらサリーに手を合わせる。

 それから、ジョンと二人きりになる。


「……」

「いい天気だなあ」

「……」

「いやあーいい天気だなあ」


 会話が始まらねえ。お前は、ロールプレイングゲームのNPCか。


「快晴、雲一つない良い天気。」

「何も言うことないんだったら黙っていてくれないかな?」


 しかし、そんな手厳しい発言を聞いてもまたジョンは、


「天気がいいなあ」


 と言った。ここまでくるともう頭が阿呆だわ。


「君のそういうわけの分からない、ミステリアスなところが好きなんだよな」

 ぼそっと告白してくるので、俺は意味が分からなくなった? NPCのバグか?(笑)。

 ここまで壊滅的になにも恋愛が進展しない理由はというと、話をいったん逸れるが……実は俺の書いた小説はどれも。だからこそ、今回異世界転生で挑戦した幼馴染恋愛が、こんな不自然になってしまっている。著名な作家が書いた児童文学のどれもベースが恋愛を絡めたものなので、自然と出版社も俺に恋愛ストーリーを書けと要求していた。それをうまく回避するために自分の武器となる「SFミステリー」を創り上げて、小説に組み込むことをしていた。


「やめてよ……」

「えっ、なにが?」


 ジョンはとぼけた。先ほどの発言からのそのとぼけ方がもう、さあ。鈍感主人公そのもので、「俺、なんかやっちゃいました?」とか言い出しそうで怖いよ。そんなのはなろう主人公だけで十分だって。

 俺も俺だわ。何が照れながら「やめてよ」だよ。頑張ってフラグ立てようとしてるのはいいが、五十過ぎの加齢臭おっさんのセリフとは思えねえって(見た目は16歳の美女だが)。だからロリコン野郎ってネットで叩かれるんだよ。精神年齢が幼くて、発言一つ一つが幼稚で、今回のノートに書いたように、ショタとロリの幼馴染の恋愛を体感したいとか、やっぱり俺犯罪者だわ。ポリさん、俺の手首にはワッカ手錠はかけないでね。

 

―――――――――――――――――――――――


 まるでホグ●ーツ城のような魔法学校が見えてきた。


「よーう、アーヤ。今日も可愛いね」


 門の前で立っていた、銀髪のイケメン野郎。確か……こいつの名前は……。

 俺は目を細めて、名前を思い出そうとするが全く思い出せない。するとそいつの口角が痙攣して、「僕はシュナイタールだよ」と述べた。


「ああ!! 影がイケメンの癖に薄すぎる残念男か!!」


 俺の言葉に隣のジョンが大笑いする。

 だって、ノートにそう書いたんだもん。キャラクター造形はひねならいと。


「もういいよ。君はひどいね」


 俺はけらけらと笑いながらシュナイタールの肩を叩いて励ましてやった。


「大丈夫だって。影が薄くても生きていけるって」


 どんどん、シュナイタールの表情がやばいことになってる。もう鬼瓦おにがわらだよ。


「僕は、いつだって冷静、冷静」


 彼はうつむいて去っていった。

 そしたらどん、と女子生徒にシュナイタールがぶつかってしまった。その女子生徒は思いっきりシュナイタールを睨みつけて、格好いいとでも思っているのか彼が履いているウェスタンブーツを踏みしめた。ちなみに、そんな服装にさせたのは誰でもない、俺だ(笑)。


「彼は、とっても痛い奴だけど、良い奴でもあるんだよねえ」


 明らかに見下したジョンの発言に、内心嗤ってしまった。


――――――――――――――――――――


「はい。今日の授業は歴史です。魔女らがとある女王によって、魔女の独立を勝ち取ったことについて詳しく学んでいきます」


 初老の、背骨が曲がっていて杖をついている教諭、確か、サマリエル・ヴンダーが三白眼をこちらに向けていた。

 授業態度に対する生徒の割合は、三割が真面目に拝聴し、五割が真面目でも不真面目でもなく成績や内申点のために打算的に授業を受け、残りの二割が授業そのものをつまらなく思い、居眠りなどをしている。

 現代でも、ここまであからさまではないがこんなものだろう。

 教諭も、二割の生徒を指導するのは時間の無駄だという認識であり、八割のために授業をしている。


 サマリエルは、咳ばらいをして、「皆さんはご存知かもしれないですが、実はこの学校にその女王の子孫がいるのです」と言った。

 あれ? そんな設定、書いたっけ?

 そして、サマリエルは俺――アーヤを指さした。


「このお方です。皆さんも意識なさるように」

「えーーーー!!」


 生徒たちの絶叫が聞こえる。二割の生徒がうたたねから起きる。

 えっ? どういうこと?


 ――――――――――――――――――――――――


 現代――。


「全く、寝相が悪いなあ孝義先生は。それに連載小説を執筆する前に寝てしまうだなんて」

 我當が、孝義が蹴とばした枕を見てそう言った。


「ん? なんだこれ」

 B5のツバメノートを見つける。それを拾ってぱらぱらとめくる。

「すごい落書きだ。いや、プロット案か? それにしても……十歳の幼馴染の恋愛って、やっぱり児童文学だから許されるけど、先生って絶対ロリコンだよなあ。そうだ。俺も編集者として、このアイデアノートに自分のアイデアを書いてあげよう(笑)。そうしてもっと編集社に貢献して、出世してえなあ」

 こんなことを聞いたことがある。編集者が作家のアイデアが書かれたプロットに口出ししたり、テコ入れしたりすることがあると。まあ、本当かどうか知らねえけどな。

 


「これでよし。もっと





 

 

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