たんぺん哀愁
森凪
u
ーー色を全部飲み込んでしまうから。
uは夜が嫌いだと言う。
どう足掻いたって、黒に塗り潰されてしまうから。
美しい夕焼け色の思い出も全部、いつか暮れる。
そうか、と彼は笑った。
塗り潰されるのが苦しいほど、俺はお前の中に残るんだな、と。
彼はとても嬉しそうにuを抱きしめて、口付けをした。
砂浜の上で、引いては寄る波に体温を奪われていくというのに。
まるで海の中でしか愛を囁けないというように。
必死に彼の色を暮れる陽から隠す。
「愛している」と言ってしまえば、波に流されそうで。
「美しい」と認めてしまえば、夜に飲み込まれてしまうのか。
uはもう彼と海の境目が見えなくなっていた。
「お前まで、飲み込まれないでくれよ……」
ぽちゃっと音を立てながら、彼はuの頬に手を伸ばす。
夜にならない色がほしいなら、と。
海に紅の色をたゆたわせた。
uが流れでるその色を止めようと必死に塞いでも。
彼の吐息はどんどん小さくなるだけだった。
「もう俺は海に流されてしまうから」
ーー言ってもいいよね。
もう、お前は怖がらなくていいんだから。
「愛している」
小さな縁担ぎだけでもお前に残したかったんだ。
その色は朝焼けの色をしていた。
その色は夕焼けの色をしていた。
その色は太陽の色をしていた。
その色は彼の血の色をしていた。
“u”
二人称すら真っ直ぐに表せない私の。
貴方に捧げる一つの過去の物語。
たんぺん哀愁 森凪 @mokaka02
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