第11話



「顔色もだいぶ良くなってきたね」


 瑞穂と話しているうちに興奮していたこともあるのか、さおりの顔色はだいぶ良くなっていました。


「私もう少し休んだら戻ります」


「うん、無理しないでね。二人にも伝えておくから」


 一人残されたさおりは、もう一度窓の外を見ました。秋晴れのいい天気が広がります。今でこそ、外に出て遊ぶことも出来ますが、去年までは外出することも嫌だったのです。


「瑞穂ちゃん、きっと大丈夫だよ……。わたしにも出来たんですから……」


 彼女は自分をもう一度勇気づけるように呟きました。




 文化祭は、一般公開の時間を少し過ぎたところで、学校祭閉式の準備が校庭で進んでいました。


 あれから程なくして復帰したさおりの様子を見て、三人ともほっとしていました。


 最後のお客さんを送り出したところで、このお店も短い役目を終えたのです。


「お疲れさま~~~~」


 一足先に調理場を片づけていたつぐみが、内緒で残しておいたビスケットと紅茶を持って教室に戻ってきました。


「片づけるの楽だったでしょう? ほとんど残っていなかったから」


「うん、途中からどんどん片づけちゃったから、むこうももう元通りだよ」


 教室の飾り付けも外し、机も元に戻したので、もうそこが喫茶店をやっていた場所とは思えなくなっています。


 窓際の机を2つ合わせて、おやつを食べながら出納係のまなみが売り上げを計算していて、他の三人は教室から直接校庭に出られるステップの所で校庭での後夜祭の準備を見つめていました。


「あれはなにやるの?」


「おっきいキャンプファイヤーみたいのをやるんだよ。とは言っても、この体育祭と文化祭で出たゴミを燃やすんだけどね。そう言うのは知らない方が……」


「なるほど~。でも、もうヘトヘト。あそこまで行く元気もないわ」


 そう言っている間にも、準備が出来て、小学校の子供達が楽しそうに火の周りをはしゃぎ始めました。


「でも、瑞穂ちゃん、いいデビューが出来たんじゃないかなぁ?」


 つぐみが急にまじめな顔になって瑞穂に言いました。


「そう……かなぁ?」


「うん、気づいてなかったかも知れないけど、クラスのみんな来てたんだよ? 一生懸命にやってるところ見たら、みんなも分かったみたい。さすが江原姉妹のお姉ちゃんだって。だから、あとは瑞穂ちゃんがもうちょっと頑張れば、すぐに溶け込めるよ。都会の人より、みんな根はよっぽど素直でいい人達ばかりだから、大丈夫だよ」


「うん。みんな……ありがとね……。私、気がついてなかったから……。私、外国に行ってボロボロになっちゃって、帰ってきたら昔みたいに出来なくなってた。なんか、今日のことできっかけが出来たかも知れないね。みんな、ありがとう……」


 涙ぐんでしまった瑞穂を、つぐみはそっと抱きしめました。昔、彼女が瑞穂にやってもらったように…。


「さぁ~、みんな~~、喜んで~」


 そんな空気を見事にうち破ったのは、一人教室で黙々と計算を続けていたまなみの声でした。


「ん?」


 振り返ると窓から顔を出しています。


「今日の売り上げ、材料費とぉ、お洋服のクリーニング代出してもまだ大丈夫~。みんなで今度買い物にでも行かない?」


「買い物より、旅行行きたいなぁ…」


 低い声でぼそっとつぐみが呟くと、他の2人も同調しました。


「え?」


「せっかく、いいところだったのにぃ……」


 ようやくその場の雰囲気を感じ取ったまなみでしたが、もはや手遅れです。


「まぁ、まなみちゃんが悪い訳じゃないから…」


「もう少し使い道は考えよう~」


 教室を完全に元通りにすると、四人は暗くなった学校をあとにしました。

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