第10話



「まなみ先輩~、クラブサンドとミートソーススパゲティーお願いしますぅ」


「はーい。ちょっと待っててねぇ。さおりちゃん! 3番にクラブとミートスパ頼んでおいて?」


「はーい。でもちょっとかかるかも……。まなみちゃん、5番にシチュー運んで置いて~」


「ちょうどお昼の時間だもんねぇ……」


 四人の担当する喫茶店『リトルフォレスト』は前評判通りの味の良さ、四人のかわいらしいエプロンドレスの衣装の評判なども手伝って、昨日よりも盛況となりました。


 まなみたち四人に加えて、二人のお母さんも手伝いに来てくれてはいるのですが、それでも間に合わなくて廊下に列が出来てしまうほどでした。


「つぐみちゃ~ん! ドリアが残りオーブンの中入ってるだけだよぉ」


 調理場から瑞穂の声がかかります。


「あんなに用意したのに、思ったより持たなかったねぇ。まなみ~、さおりちゃんドリアラスト5ねぇ」


 教室の二人に叫ぶと、つぐみも配膳に回ります。


「そうだねぇ。ついでに、ビーフシチューも結構厳しいなぁ…」


「サンドイッチとか出ると思ったのになぁ」


「思ったより、暖かい物が出てるんだよ。どれもそんなに在庫ないもん。ピザパンなんかはまだ作れるけど時間かかるし…」


「そっかぁ」


 二人が苦笑したときに、隣の教室から悲鳴が上がりました。


「なになに?」


「大変! さおりちゃんが!」


 教室の端の方でさおりが気分悪そうにうずくまっていました。


「疲れただけだから平気…」


「ダメダメ、ここは大丈夫だから保健室に! 瑞穂ちゃんお願い」


 瑞穂はつぐみたちより力もあり、小柄なさおりなら抱きかかえることも出来ました。


「ゆっくり休んできていいから」


 二人にお店を預けると、瑞穂は教室を出ていきました。




「瑞穂ちゃん、わたし重いですよぉ……」


「はいはい。どうせ保健室は1階なんだから何も言わないの」


 保健室の鍵は開いていましたが誰も中にはいません。


「少し休んでいれば大丈夫だから……」


「遅くまでやっていたから、疲れたんだよ……」


 ベッドに寝かされた頃には、さおりの顔色もだいぶ戻ってきていました。


「瑞穂ちゃん?」


「ん?」


 保健室から出ていこうとした瑞穂を呼び止めました。


「瑞穂ちゃんも無理しないでくださいね」


「私は大丈夫だよ。こんな雰囲気だけど昔から体力には自信あるし」


「そうじゃないですよ。瑞穂ちゃん、クラスのみんなのこともずいぶん気にしているから……」


 瑞穂の表情が変わります。


「瑞穂ちゃんの気持ち、みんな分かりますよ。だから一人で頑張る必要なんてないんですから」


「私は……」


 なにか返そうとしますが、言葉が詰まってしまいます。転入してから半月近く経ちますが、このお祭りの直前ということも手伝って、同級生とあまり会話できる機会がありませんでした。それにやはり彼女自身、自分が年上だと言うことにコンプレックスを感じてしまっていることも事実だったのです。


「私も、転入してきたときは凄く不安だったんです。たぶん、まなみちゃん達が入ってきたときは、もっと大変だったと思います。でも私、一番閉じこもってしまっているのは自分だって分かったんです」


「閉じこもってるか……」


「私も最初は一人ぼっちだって思ってました。でもそれって、結局一人でそう思っていただけなんですよ……」


「私も……、そうなのかな?」


「私、瑞穂ちゃんに何があったのかはよく分かりません。でも、そこで止まってしまったら、次のステップに行けないと思うんです。私が言っても説得力無いかも知れないですけど……。まなみちゃんたちはそれを乗り越えているから……」


 さおりは窓の外を見やった。瑞穂を正視できなくなってしまったのだけれど。


「さおりちゃん、私、昔はあの二人のお姉さん役やっていた……。でも、今はあの二人の方が強いよね。私も頑張らなくっちゃダメだよね」


「そうですよ、あの二人になんか負けていられないですよね」


 思わず笑ってしまうさおりと瑞穂。


 まなみ達姉妹も、決して無理はしていません。ほんの少し頑張ることが出来た事が、彼女たちをあそこまで元気にした要因なのだと分かっているのですから。

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