第9話
夕方、初日の体育祭も無事終了し、校庭では翌日の文化祭のための簡単なステージを作ったりと準備が行われていました。各教室も翌日の展示に備えて残っている生徒もまだたくさんいました。
体育祭の終了を待たずして、今日の分を完売してしまった家庭科室では、四人が後かたづけと、明日の準備を進めていました。
昨日、あれだけ準備をしながらも、実は四人の中では校庭での出店も多いので、それほどお客さんは多くないのではないかと予想していたのですが、その期待は見事に外されてしまいました。
昨年の評判を聞きつけてしまった町の人だけではなく、時間の空いた生徒までがやってきてしまったのです。
今日は比較的飲み物が多かったのですが、明日は凝った物にメニューを変えています。
本当は四人で準備をしたかったのですが、今日売りすぎてしまった物をまなみとさおりが買い出しに行き、残りがまた調理場に立つことになりました。
「う~ん。こんなに疲れた運動会初めてかも…」
「運動会で疲れたんじゃないよねぇ」
「そうだね…」
お店からの帰り道、材料の入った袋を両手に持った二人が、学校に方に戻っていきます。
「でも、さおりちゃんも悪くないでしょ? 黙って見てるだけなんて面白くないもんね」
「うん。そうですね。ここに来る前って、ずっと見ているだけだったから……」
もともとあまり活発なタイプではありませんが、普段の軽い運動さえ出来なかったことを考えれば、さおりがの気持ちも理解できます。
「でも……、昔は、運動するぐらいなら死んじゃった方がいいって思ったこともあったんですよ?」
「そっか……。私たちも喘息になって動けなくなって…、遊べないのが辛かったもんなぁ。お姉ちゃんは昔からあまり外に出る感じじゃなかったから、変わらなかったかも知れないけど……」
まなみ達もこの土地に越して来るまでは、都会のごみごみとした所に暮らしていたのですから、境遇はさおりと同じです。
「あ、あの……、まなみちゃんとか、苦しくなった時って、どうでしたか……?」
「ん?」
さおりの顔を見ると、さっきまでの明るい表情は消えてしまっていました。
「あのね、私一人っ子だから、苦しくても誰もいなくて……」
「うちはね……、お姉ちゃんが先に倒れちゃったんだ。そのあと私も動けなくなっちゃたでしょ。だからお姉ちゃん気にしてるんだよ……。お姉ちゃんが私にうつしたんじゃないかって。そんなことないのにね……。だからね、治ったあとのお姉ちゃんは本当に大人しくなっちゃったんだよ。だからさおりちゃんの気持ち、お姉ちゃんの方がきっと分かると思う」
いつの間にか学校の校庭に戻ってきた二人。まなみは家庭科室の方に顔を向けました。教室の半分くらいはまだ電気が点いています。体育祭のあとでは、疲れてしまって準備もはかどらないのは毎年の話なのですが……。
「あとでつぐみちゃんに聞いてみます」
「うん。あとね、あの瑞穂ちゃんにもお世話になったんだぁ」
校舎の中に入ると、校内は最後の準備に追われて、そこら中にいろんな物が散らかっています。
「いつもよりペース遅いなぁ。明日間に合うのかなぁ……」
廊下の荷物を避けながら家庭科室に戻ります。
「ただいまぁ~。買ってきたよぉ」
「お帰り。ん~、まだまだダメかもねぇ……」
オーブンの前で腕組みしている二人が苦笑しています。
「売れすぎるってのも困ったもんだねぇ」
結局、その日も瑞穂の家に泊まり込みで、準備を続けることになってしまったのです。
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