第7話
「そっかぁ…。メニューづくりから考えなきゃダメね。オーブンとかがあればいろいろ出来るんだけどなぁ…」
お昼を食べ終えて、四人は本題の文化祭の喫茶店の話に戻ることにしました。
その後に電話があって、聞いたところでは、他に簡単な模擬店は地元の人でも出るとのことでしたが、ちゃんと落ち着いて食べられるものを出すと言うことではなさそうなので、彼女たちの役目がいつの間にか大きくなってきてしまったのです。
「とにかく、何が作れるかはキッチン見てきた方がよさそうね。学校の家庭科室に入れるかしら?」
「まだお昼過ぎだから、大丈夫だと思うよ。行ってみる?」
時計を見ると、次のバスまで30分弱。それを逃すと1時間先になってしまいます。四人は慌てて片づけを簡単にして、瑞穂の家を飛び出しました。本当ならバス停まで20分でギリギリ間に合うかどうかなのですが、例の裏道を使えば10分でバス停まで行きます。
四人がバス停に駆け込んだとき、幸いまだバスは来ていませんでした。
「はぁ……。遅刻でもしそうな勢いね。毎朝これは厳しいなぁ」
苦笑するのは瑞穂です。きっとこれからは朝の待ち合わせ場所になるバス停ですが、彼女が一番遠いので、きっとあの裏道は毎日の通学路になるはずです。でも、天気が悪いとそうは行きません。
やってきたバスに揺られて20分。校庭では小学生の子たちがサッカーをしていました。夏休みということもあって、学校の中はがらんとしています。
四人は学校の中に入ると、つぐみが職員室で家庭科室の鍵を借りてきました。当番できていた先生は驚いたようですが、学校祭のことを話すと、快く渡してくれました。
瑞穂とつぐみで家庭科室を調べている間、まなみとさおりは教室で、レイアウトなどを簡単に考えることにしていました。
「案外揃ってるねぇ。オーブンもこれだけあれば同時にケーキとか焼けそうだし」
「食器とかは用意しなくても済みそうだね」
四人の不安はとりあえず家庭科室に限って言えば無くなりそうです。小学校と中学校が一緒になっているおかげで、冷蔵庫やオーブンも比較的数もあり、食器類もそれなりに間に合いそうです。
「これでだいぶ予算削減!」
今回はメニューを考えることはつぐみに任せ、出納係に自らなったまなみです。
「まなみちゃん嬉しそうじゃない?」
「だって瑞穂ちゃん、かかるお金は基本的に自己負担だよ?」
「え~、そうなのぉ?」
普通、文化祭の出し物の予算などという物は、学校からある程度補助が出るようですが、ここでは基本的に自己出資です。他のクラスメイト達が彼女たちに喫茶店チームを半ば強引に引き受けさせてしまったのも、食べ物のように準備にお金がかかり、確実にリターンが来るか分からない出展には参加しにくいと言うのがあるのでしょう。
「ただし、プラスが出た場合は全額山分けできるけどね」
「そ。だから家庭科室の食器が使えれば、お皿とかの費用は要らないし、値段も安くできるじゃん?」
「お客さん第一かぁ」
四人で笑いながら、今度は出展する教室に向かおうとしたのですが、予定されているのが2階の教室と言うことで、瑞穂は不安がりました。
「1階の家庭科室から2階の教室まではちょっと遠すぎるかも……。せめて1階ね」
まだ正式に教室の割り当てが決まったわけではないのですが、家庭科室の隣は1年生の教室でした。文化祭の時期に限ってしまえば、その教室の割り振りは小学校から中学校まで関係が無くなるのですが、恐らくその部屋は別の出し物で埋まっている予想だったのです。
元々の予定では、お湯などは教室で用意することが出来るので、食べ物を家庭科室から運んでくる必要があるのは覚悟していたのです。でも、よく考えてみれば一般のお客さんもいる混雑した廊下をそう何度も行き来できそうにないと言う結論になりました。
「そうかぁ。ちょっとそれは考えなくちゃダメだねぇ」
「う~ん。ちょっと待ってて」
教室から引き返し、少し考え込んだつぐみは突然三人を廊下に残して職員室に消えてしまいました。
「何を考えたんだろ…」
「まさか……。でもつぐみちゃんそんな事はしない子だよねぇ」
「でも瑞穂ちゃんいない間に、お姉ちゃん結構変わったよ?」
別にこそこそする必要はないのですが、それは職員室の前の廊下というのは、どうも緊張してしまうものです。
10分ほど経つと、つぐみが出てきました。
「なにやってたの?」
「これで問題解決ね」
「まさかつぐみちゃん……?」
「うん。家庭科室のお隣いただきです」
三人は呆気にとられてしまいました。交渉しに行ったのだろうと言うのは見当が付いていたのですが……。
「つぐみちゃん、また無理言ったんじゃないでしょうね?」
1階の廊下を目当ての教室に移動しながらさおりが心配そうに尋ねます。
「ううん。無理矢理じゃなくて、ちゃんと理由言ったよ。お湯とかこぼしちゃったら大変って言ったの。そしたらどこがいいんだ?って話になったの」
さすがと言うべきなのでしょうか…。瑞穂を除く三人の中では一番頭が回るつぐみですが、ここまでの行動力は普段見せることはあまりありません。
「その代わり、先生にサービスするって条件出されちゃったけどね」
つぐみは笑いました。もちろん冗談で言っているのですが、去年二人が作ったお菓子が好評だったのを知っているのでしょう。
教室に入ってみて、ざっと広さを調べてみます。
「う~ん、メジャー持ってくれば良かったなぁ」
「まなみ、私のロッカーにお裁縫用の入ってるから持ってきてくれる?」
「さすがお姉ちゃん…」
教室のカーテンと窓を開け、黒板に大体イメージしていた図を書いてみます。
「そうだねぇ。教室の中にキッチンが要らなくなったからね。全部テーブルに出来るよ」
1階の教室には外に出られる扉が付いています。隣の家庭科室のドアを開け放しておけば、廊下を通らずに行き来することが出来るようになっていました。
「でも、段差が怖いですね」
「その辺は男子に手伝ってもらいましょ。ちょっと考えがあるし」
瑞穂とまなみが教室の中の話をしている間に、残った二人はまた家庭科室に入って行きました。
「うん。大体分かった。このあとお買い物して帰りましょ。明日からメニュー決めなくちゃね」
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