第3話



 夏休みに入ってすぐの朝、つぐみとまなみは町のスーパーに買い物に来ていました。ここ数日の間、つぐみたち二人とさおりは何度か相談して、メニューを決めていましたが、なかなかすぐには決まりません。結局、試しに作ってみて、美味しかった物を出そうと言うことになったのでした。そこで、三人の中で一番料理が上手なつぐみと、その買い物のお手伝いにまなみが出てくることになったのでした。


 夏休みになると、都会からたくさんのお客さんが避暑にやってきます。いわゆる観光地ではありませんが、親戚があったりする人などの紹介で来たりと、いつもの佇まいとはずいぶん変わってしまいます。彼女たちが着ているような服のお客さんも増えるので、この日も、まなみやつぐみが商店街を歩いていても、特に目立つことはありませんでした。 お買い物を済ませ二人でバス停まで戻る途中、つぐみはふと気になる人影を見つけました。同じくらいの歳のその女の子は、つぐみには非常に懐かしく思えたのです。


 真っ白いレースやフリルの入ったワンピースに、ほっそりとした足下は短いソックスと白いサンダルで、なによりもつぐみが気になったのは、頭に付けている大きめのリボンでした。同じような格好をしている子は時々見かけますが、つぐみにはどうにも引っかかる物があったのです。


「お姉ちゃんどうしたの?」


 突然立ち止まってしまったつぐみを、まなみが心配そうに見ました。


「ねぇ、あれ……。瑞穂ちゃんじゃない?」


「え? うそ……」


 いきなりのことにびっくりして、まなみも目を凝らしました。


「うーん、似てるねぇ。もう何年も会っていないからね。変わっちゃってるかもしれないし。でもそうとも思えるし……」


 二人が考え込んでいるうちに、その子は見えなくなってしまっていたので、二人は仕方なく、バス乗り場の方に歩いていきました。


 このシーズンになってしまうと、車も多くなってしまうので、小さな町の道路はいつも混雑していますからバスは時間通りに走ってはくれません。


 この時も、いつもならとっくにバス停で発車を待っている時刻なのですが、今はどこにも見えません。


「きっと、入り口のところで詰まってるんだね。あそこでいつも混んじゃうから」


「うん……」


 つぐみはまだ考え込んだままだったのでしょうか。ぼんやりと考え込んだままバス停のベンチに腰掛けていました。


「あの……、すみません」


「えっ?」


 突然後ろから声をかけられ、二人はびっくりして振り向きました。そこにはさっき見かけて見えなくなってしまった、あの女の子だったのです。


「あ、やっぱり……」


「瑞穂ちゃん?」


 二人の口から、同時に言葉が自然に出ました。すると、その子はいきなりのことにちょっと戸惑った様子でしたが、すぐに何かを思いだしたようです。


「つぐみちゃんとまなみちゃんよね?」


 その子もすぐに顔に満面の笑みを浮かべました。


「会いたかったよぉ。もう来てくれないのかと思った!」


 うれしさのあまり、目に涙を浮かべたまなみが、彼女に抱きつきました。


 彼女は小森瑞穂と言うつぐみたちよりも1つ年上のお姉さんでした。瑞穂は体が弱いなどのハンデは持っていませんでしたが、いつも学校がお休みになると、療養に来ていたつぐみやまなみと一緒に遊んでくれたのです。


 あの川辺のことや、二人がずっと気にかけていたのは、この瑞穂のことだったのです。二人が中学校に通いだしてからは、姿を見せることもなくなってしまったので、二人はいつも彼女の再来を楽しみに待ち続けていたのでした。


「二人とも大きくなったねぇ……。もう身長差もなくなっちゃったね」


 瑞穂も再会を懐かしむように、二人を見ました。


 最後に会ったのは、二人がまだ小学校の最後の冬休みで、中学生に上がっていた瑞穂とつぐみたちにはまだ身長差がありました。性格もおっとりしていて、常に落ち着いていて、二人にとっては頼れるお姉さんのように感じていたのです。実際に、瑞穂は二人の事をよく見てくれました。

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