第8話



「瑞穂ちゃん、次は冬休みになっちゃうね…」


「うん、でも来られるときは、秋でも来ようかな。紅葉がきれいそうだしね」


 夏休み最後の日、二人は瑞穂を見送りに再びあの小さな駅にやってきました。


「なんか、また寂しくなっちゃうな…」


 寂しそうなまなみの言うとおり、この夏休みの時期が終わってしまうと、また町の中はぐっと静かになり、秋の始まりは季節も手伝って一段と閑散として見えてしまいます。スキーシーズンの始まる冬になるまで、町は静かな秋を迎えるのです。本当ならば秋の紅葉が一番きれいなのですが、夏のようなたくさんのお客さんは来ません。


「でも、この夏休みは楽しかったよぉ」


「いろんなことやったもんね」


「なんだか、都会に帰るのがつまらなくなっちゃったな……。こっちの方がたくさん楽しいことありそう」


 つぶやいた瑞穂に、つぐみは顔を振りました。


「いつもはこんなににぎやかじゃないし、寂しいところだよ。どんどん人も減ってきてるしね。でも、もう都会にはきっと戻れないから……」


 都会暮らしをしていると、田舎の生活はのんびりしていてよさそうに見えることがよくあります。でも、実際に暮らしてみると、にぎやかで便利な都会に比べると、物足りなく感じてしまうことがよくあります。つぐみの忠告はもっともかもしれませんでした。


「いつか、海とか一緒に行こうね」


 そんな二人を慰めるように瑞穂が話します。二人は海には行ったことはありますが、遊んだり出来るきれいな海は近くにはなく、海水浴など一度もなかったのですから。


「うん、いつか行こうね」


 遠くで踏切の音が聞こえて、列車が来ることを教えてくれました。


「荷物大丈夫?」


 昨日、三人でおみやげを買った袋や来るときに持ってきていたバックなどを両手に持つと、小柄な瑞穂には少々重そうに見えてしまいました。


「またお手紙書くね」


「うん、みんなによろしく。あのふくろうさんにも」


 あの日保護をした雛鳥はしばらくして巣立ちをして、姿はあまり見えなくても夜には鳴き声が聞こえてきて、近くに巣を作ってくれたのが分かります。


 列車のドアが開き、彼女が乗り込んだ列車の中は、夏休みを終わるお客さんで混雑していました。


「また冬休みね! 来てくれてありがと!」


「それじゃ気をつけてね」


 二人が最後の挨拶を終えるのを待っていたかのように、ドアは閉まり、静かに列車は発車していきました。追いかけるにも3両の短い列車なので、ホームも短く、すぐに終わりになってしまいます。


「行っちゃった……」


「うん。私たちも明日から学校ね」


 坂を下りていった電車が見えなくなると、二人は秋がすぐそこまで近づいた森の中を戻っていきました。


 確かに、夏の終わりを告げるこの儀式は寂しい物ではあったのですが、不思議とつぐみはそれとは別に、今までとは違ったある予感が浮かんでいたのです。


 今の状況を考えると、それは考えられないことでしたが、しかし、なぜかつぐみにはそれがいつか本当になるのではないかと思えて仕方なかったのです。


 でも、それが本当になるかどうかは、あと数年が必要でした。

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